~信託法条文~ 第23条/第24条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等) 重要度3

第23条 信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。

信託財産の独立性を示している条文であるが、性状変換説から見ると至極当然の規定である。

 第3条第3号に掲げる方法によって信託がされた場合において、委託者がその債権者を害することを知って当該信託をしたときは、前項の規定にかかわらず、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者のほか、当該委託者(受託者であるものに限る。)に対する債権で信託前に生じたものを有する者は、信託財産に属する財産に対し、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売又は国税滞納処分をすることができる。

  委託者の債権者を保護するため、詐害的な信託契約の場合に例外を設けている。

  なお、民法改正に合わせて、条文の一部が改正されている。

 第11条第1項ただし書、第7項及び第8項の規定は、前項の規定の適用について準用する。

 前二項の規定は、第2項の信託がされた時から2年間を経過したときは、適用しない。

  取引の安全を考慮して、期間制限を設けている。

 第1項又は第2項の規定に違反してされた強制執行、仮差押え、仮処分又は担保権の実行若しくは競売に対しては、受託者又は受益者は、異議を主張することができる。この場合においては、民事執行法(昭和54年法律第4号)第38条及び民事保全法(平成元年法律第91号)第45条の規定を準用する。

 第1項又は第2項の規定に違反してされた国税滞納処分に対しては、受託者又は受益者は、異議を主張することができる。この場合においては、当該異議の主張は、当該国税滞納処分について不服の申立てをする方法でする。

信託財産の独立性を保護している。

(費用又は報酬の支弁等) 重要度2

第24条 前条第5項又は第6項の規定による異議に係る訴えを提起した受益者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士、弁護士法人、司法書士若しくは司法書士法人に報酬を支払うべきときは、その費用又は報酬は、その額の範囲内で相当と認められる額を限度として、信託財産から支弁する。

信託財産の独立性から当然の規定である。

 前項の訴えを提起した受益者が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該受益者は、受託者に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。

訴訟の結果に関わらず、信託財産の独立性を保護している。

【スタッフブログ】信託契約書を公正証書にするケース

契約というのは契約の当事者の意思が合致していれば必ずしも書面で行う必要はありませんが、書面に残すことで契約当時の意思をあとから確認できますし、双方の意思を文章で確認して認識の食い違いを防ぐためなどの理由で、契約を締結するときはまず書面で、ということが当たり前のように行われています。


書面契約が通常としても、契約書を公正証書で、とするとおそらく件数的にはグッと減るのではないかと思われます。ただ、信託契約書は比較的公正証書でなされることが多い契約ではないかと思います。私どもで公正証書での親愛信託契約締結をお勧めするケースは以下のとおりです。

契約の片方の当事者である委託者がご高齢で、ご高齢=行為能力(法律用語で、契約を有効に締結できる状態であることを【行為能力がある】と言います)がない、として契約の有効性に疑問を生じさせないためにも、公証人の先生が関与して契約を締結することが大切との考えからです。いわゆる「真正担保」のためです。


公正証書で契約書を作りますと、原本が1通…こちらは公証役場に保管され、(保管期間は公証人法施行規則第27条第1号により、20年です。)それを元に正本又は謄本が契約者に交付されることとなります。
公正証書の【正本】には、公証人の署名捺印がされ、原本と同一の全文、正本であること、交付請求した者の氏名、作成の年月日と場所が記載されます(公証人法第48条)。
 また、公正証書の【謄本】には、公証人の署名捺印がされ、原本と同一の全文、謄本であること、作成の年月日と場所が記載されます(公証人法第52条)。


 今は、信託金銭を管理するための専用の口座(「信託口口座」と言います)を作るとき、この信託契約書公正証書の謄本の提出を義務付けている銀行も多く出てきています。
また、親の財産を巡って子供たちに争いが起こりそうな場合、第三者に向けて信託契約が適正に締結されたことを主張したい場面が予想される場合は、将来において疑義が起こらないように、信託契約書は公正証書で締結することをお勧めしております。

一般社団よ・つ・ば親愛信託ちば 理事 AM

参考条文
公証人法施行規則
第二十七条 公証人は、書類及び帳簿を、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる期間保存しなければならない。ただし、履行につき確定期限のある債務又は存続期間の定めのある権利義務に関する法律行為につき作成した証書の原本については、その期限の到来又はその期間の満了の翌年から十年を経過したときは、この限りでない。
一 証書の原本、証書原簿、公証人の保存する私署証書及び定款、認証簿(第三号に掲げるものを除く。)、信託表示簿 二十年
二 拒絶証書謄本綴込帳、抵当証券支払拒絶証明書謄本綴込帳、送達関係書類綴込帳 十年
三 私署証書(公証人の保存する私署証書を除く。)の認証のみにつき調製した認証簿、確定日付簿、第二十五条第二項の書類、計算簿 七年

~信託法条文~ 第21条/第22条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産責任負担債務の範囲)重要度MAX

第21条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

誤って解釈されている部分も多く、極めて重要な条文である。

そもそも日本の信託法では「債務」は信託の対象とならないことが大原則であり、信託財産責任負担債務とは、その例外をなすものである。

また信託財産責任負担債務の債務者とは、本来は「信託財産」自体であり、すなわち物的有限責任となるべき債務なのであるが、日本の債権法及び金融実務では債務者は必ず「人」であり、財産そのものを債務者とするという発想が存在しないため、結局は名義人である受託者が個人として無限責任を負うという構成となってしまう。

しかし、受託者は信託法第8条で信託の利益を享受できないと規定されており、かつ商事信託のように受託者報酬の受領が前提とはされていない親愛信託のスキームにおいて、受託者が無限責任でもって債務を引き受けさせられるのは、いかにも理不尽な話である。

その意味から、本来の信託財産責任負担債務は本条第2項に定める「信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う」とする「限定責任信託」に限るべきである。

しかし、現実には受託者に無限責任を負わせる理不尽な融資が実行されており、本条の抜本的な改正が求められる。

 受益債権

受益債権は民法上の債権とは異なり、性状変換説においては受託者に託してある受益者本人のものである信託財産を受益者本人が受け取る(受け取った財産は信託から離脱する)という構造になるので、債権という名が付いていても民法上での「請求権」とは全く異なる信託独自の概念となる。

 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利

例えば元々あった不動産の瑕疵に対する賠償請求債務などを指すものと思われ、立法者の一部が著書で述べているような「住宅ローン」などは該当しない。

何故なら日本の住宅ローンはアメリカのような「ノン・リコース・ローン(実質的に人ではなくモノが債務者であるローン)」ではなく、不動産とは直接の関係なく債務者個人に貸し出される「リコース・ローン」という仕組みになっており、不動産に関しては抵当権の設定でもって保全しているだけであるからである。 

また、よく例として挙げられている「賃貸不動産にかかる敷金」であるが、これは信託契約とは無関係の賃貸借契約から発生するものであるが、賃貸借契約は必ずしも不動産そのものだけを対象としている訳ではなく、かつ信託不動産とは別の金銭で弁済すべき債務であるため、必ずしも本号に定める債務であるとは考えられない。

固定資産税債務も同様で、これも信託契約とは無関係に「所有者個人」に対して発生するものであるから、やはり本号にかかる債務とは言い切れない。

その意味では、本号に該当する債務が実際に何であるかは、実はまだ明らかではないということになる。

 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

ここで言う債務は、信託行為でもって信託財産責任負担債務に指定した債務であると想定されるので、その債務の種類には制限はないが、現行のように受託者個人を債務者として無限責任を負わす仕組みであれば、限定責任債務でない限り、債権者にとっては、どのみち債務者である受託者個人相手の債務となるので、あまり意味をなさない。

 第103条第1項又は第2項の規定による受益権取得請求権

受益権取得請求権は信託から離脱する受益者に対して信託財産から対価を支払う制度であるから、純粋な信託内での債権債務であり、信託財産責任負担債務と言えよう。

 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利

 ここで言う「信託財産のためにした行為」とは、例えば信託不動産を保全管理あるいは修繕等をするために行った借入などを指しており、受託者が新規に信託財産を追加するために金銭を借り入れる行為、いわゆる「受託者借入」が含まれるという解釈は成り立ち得ない。

 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属しないもののうち、次に掲げるものによって生じた権利

 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合を含む。ロにおいて同じ。)の規定により取り消すことができない行為(当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知らなかったもの(信託財産に属する財産について権利を設定し又は移転する行為を除く。)を除く。)

 第27条第1項又は第2項の規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないもの

  受託者が権限外で行った行為であっても、債権者保護のために信託財産にも責任が負わされるとする規定である。

 第31条第6項に規定する処分その他の行為又は同条第7項に規定する行為のうち、これらの規定により取り消すことができない行為又はこれらの規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないものによって生じた権利

  前号と同じ。

 受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利

  受託者が行った不法行為による債務も信託財産にも責任がかかるとしている。

 第5号から前号までに掲げるもののほか、信託事務の処理について生じた権利

受託者の権限に属するか属さないかに関わらず、信託事務の処理について生じた債務については信託財産にも責任を負わせることとしている。

 信託財産責任負担債務のうち次に掲げる権利に係る債務について、受託者は、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う。

  この第2項が限定責任信託の規定であり、本来の信託財産責任負担債務である。

 受益債権

受益債権の性格については諸説あるが、少なくとも受託者個人が無限責任を負う性質の債務ではないことが明らかになっている。

 信託行為に第216条第1項の定めがあり、かつ、第232条の定めるところにより登記がされた場合における信託債権(信託財産責任負担債務に係る債権であって、受益債権でないものをいう。以下同じ。)

限定責任信託であると登記された債務を指しており、これこそが本来の信託財産責任負担債務であると言える。

 前二号に掲げる場合のほか、この法律の規定により信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものとされる場合における信託債権

 信託債権を有する者(以下「信託債権者」という。)との間で信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の合意がある場合における信託債権

  本号により、債権者との合意で限定責任債務を作ることは可能であるが、実際には日本の債権法、金融制度、そして税制との関係で合意による設定は困難であると思われる。

(信託財産に属する債権等についての相殺の制限) 重要度2            第22条 受託者が固有財産又は他の信託の信託財産(第1号において「固有財産等」という。)に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務(第1号及び第2号において「固有財産等責任負担債務」という。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって信託財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

 当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該信託財産に属する債権が固有財産等に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合

 当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産等責任負担債務が信託財産責任負担債務でないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合

 前項本文の規定は、第31条第2項各号に掲げる場合において、受託者が前項の相殺を承認したときは、適用しない。

 信託財産責任負担債務(信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものに限る。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって固有財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、当該信託財産責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該固有財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産に属する債権が信託財産に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合は、この限りでない。

 前項本文の規定は、受託者が同項の相殺を承認したときは、適用しない。

信託財産と受託者の固有財産との峻別から、相殺についての民法の一般原則と異なる規定を置いているが、常識的な内容である。

~信託法条文~ 第19条/第20条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産と固有財産等とに属する共有物の分割) 重要度3     

第19条 受託者に属する特定の財産について、その共有持分が信託財産と固有財産とに属する場合には、次に掲げる方法により、当該財産の分割をすることができる。

 信託行為において定めた方法

 受託者と受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)との協議による方法

 分割をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該分割の信託財産に与える影響、当該分割の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるときは、受託者が決する方法

例えば一個の不動産の共有持分の一部が信託財産、一部が受託者の固有財産となっている際に、民法における共有物分割に準じるルールが適用できると定めている。

実務上で共有物分割が発生する可能性があるとすれば、信託法第17・18条に基づく付合・混和・加工により、実質的な共有状態となったものを解消したいケースであろう。

なお、信託法で「固有財産」と表現されているのは「受託者の固有財産」なので、注意が必要である。

 前項に規定する場合において、同項第2号の協議が調わないときその他同項各号に掲げる方法による分割をすることができないときは、受託者又は受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)は、裁判所に対し、同項の共有物の分割を請求することができる。

 受託者に属する特定の財産について、その共有持分が信託財産と他の信託の信託財産とに属する場合には、次に掲げる方法により、当該財産の分割をすることができる。

 各信託の信託行為において定めた方法

 各信託の受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)の協議による方法

 各信託について、分割をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該分割の信託財産に与える影響、当該分割の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるときは、各信託の受託者が決する方法

 前項に規定する場合において、同項第2号の協議が調わないときその他同項各号に掲げる方法による分割をすることができないときは、各信託の受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)は、裁判所に対し、同項の共有物の分割を請求することができる。

2項以下は一般条項について定めており、特に重要ではない。

(信託財産に属する財産についての混同の特例) 重要度3

第20条 同一物について所有権及び他の物権が信託財産と固有財産又は他の信託の信託財産とにそれぞれ帰属した場合には、民法第179条第1項本文の規定にかかわらず、当該他の物権は、消滅しない。

信託財産の独立性を示している条文で、例えば所有権名義人と地上権名義人が一致した場合、民法では混同で地上権が消滅するが、信託においては混同が生じないとしており、当然の条項である。

 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が信託財産と固有財産又は他の信託の信託財産とにそれぞれ帰属した場合には、民法第179条第2項前段の規定にかかわらず、当該他の権利は、消滅しない。

所有権以外の物権相互に関しても1項と同様の規定を置いている。

 次に掲げる場合には、民法第520条本文の規定にかかわらず、当該債権は、消滅しない。

 信託財産に属する債権に係る債務が受託者に帰属した場合(信託財産責任負担債務となった場合を除く。)

 信託財産責任負担債務に係る債権が受託者に帰属した場合(当該債権が信託財産に属することとなった場合を除く。)

 固有財産又は他の信託の信託財産に属する債権に係る債務が受託者に帰属した場合(信託財産責任負担債務となった場合に限る。)

 受託者の債務(信託財産責任負担債務を除く。)に係る債権が受託者に帰属した場合(当該債権が信託財産に属することとなった場合に限る。)

債権に関しても1項と同様の規定を置いている。

~信託法条文~ 第17条/第18条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産に属する財産の付合等) 重要度4                   

第17条 信託財産に属する財産と固有財産若しくは他の信託の信託財産に属する財産との付合若しくは混和又はこれらの財産を材料とする加工があった場合には、各信託の信託財産及び固有財産に属する財産は各別の所有者に属するものとみなして、民法第242条から第248条までの規定を適用する。

財産の付合に関して民法の一般条項を準用するとの規定である。

信託の特性から、受託者名義の財産の中に固有財産と信託財産が混在することになり、それらが付合・混和・加工の対象となった際のルールを定めている。

実際に発生するケースとしては、委託者が認知症等になって行為能力を喪失した後に、建物である信託財産を修繕するために資金が必要となり、受託者が個人として借入(いわゆる受託者借入ではない、適法な本来の借入行為)を行って建物の資産価値を増加させた際などが考えられる。

第18条 重要度4                               

信託財産に属する財産と固有財産に属する財産とを識別することができなくなった場合(前条に規定する場合を除く。)には、各財産の共有持分が信託財産と固有財産とに属するものとみなす。この場合において、その共有持分の割合は、その識別することができなくなった当時における各財産の価格の割合に応ずる。

 前項の共有持分は、相等しいものと推定する。

 前二項の規定は、ある信託の受託者が他の信託の受託者を兼ねる場合において、各信託の信託財産に属する財産を識別することができなくなったとき(前条に規定する場合を除く。)について準用する。この場合において、第1項中「信託財産と固有財産と」とあるのは、「各信託の信託財産」と読み替えるものとする。

前条と同様である。

~信託法条文~ 第15条/第16条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産に属する財産の占有の瑕疵の承継) 重要度2

第15条 受託者は、信託財産に属する財産の占有について、委託者の占有の瑕疵を承継する。

民法の一般条項を準用するとの規定で、例えば時効取得年数の善意と悪意の相違などに影響するが、さほどの問題ではない。

(信託財産の範囲) 重要度4           

第16条 信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、次に掲げる財産は、信託財産に属する。

 信託財産に属する財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産

「受託者が得た財産」という表現が微妙であるが、不動産を売却して得た金銭が当然に信託財産となることの根拠とも言える。

 次条、第18条、第19条(第84条の規定により読み替えて適用する場合を含む。以下この号において同じ。)、第226条第3項、第228条第3項及び第254条第2項の規定により信託財産に属することとなった財産(第18条第1項(同条第3項において準用する場合を含む。)の規定により信託財産に属するものとみなされた共有持分及び第19条の規定による分割によって信託財産に属することとされた財産を含む。)

1項と同様。

~信託法条文~ 第13条/第14条 よ・つ・ば的解説付

会計の原則) 重要度4

第13条 信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする。

非常に抽象的な条文となっているが、「一般に公正妥当」「会計の慣行」という文意から、商事信託と親愛信託とでは会計に関する取扱いが異なることが前提であると読め、また親愛信託においては29条に基づく受託者の注意義務の軽減を規定しているケースが多いことから、会計についても義務の軽減が可能であると解釈できる。

第二章 信託財産等

(信託財産に属する財産の対抗要件) 重要度3  

第14条 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。

不動産、特許などは信託に関する登記・登録制度を持っているので、対抗要件を取得することが望ましい。

信託登記を留保するケースも見られるが、特に不動産登記は、登記義務者が行為能力を喪失すると、意思確認が厳格化された昨今、申請ができなくなるので注意が必要である。

~相談してはいけない専門家の見分け方~ 第5回目

★第5回目

Q7:信託財産を他者に贈与することは可能ですか?

金:難しいことは分かりませんが、受託者は何でもできるので大丈夫なんじゃないですか。

規:後見制度と同じで、信託財産を減らさないことが受託者の義務であり、贈与は忠実義務違反になるので絶対に不可能です。

懐:信託してまで贈与をする必要はないでしょう。

推:歴史的に信託には財産を贈与する権限を託するという意味もあるので、信託契約に掲げられた目的の範囲に「贈与」が記されているなら、受託者は信託の目的達成のために贈与をしなければならず、逆に贈与しなければ義務違反となります。

Q8:専門家が受託者となるべきと思われますか?

金:専門家が家族信託の受託者としても報酬が得られるようになる法改正が実現することを願っています。

規:本来、信託とは信託銀行や許可のある信託会社が行うべきものなので、もし専門家が民事信託の受託者になるなら、権威ある専門家団体の倫理研修や資格試験が必須になるでしょう。

懐:専門家を受託者にしてまで信託をする必要はないでしょう。

推:本来、親愛信託の受託者は家族などの信頼できる個人や親愛信託専用に作る一般社団法人が無償でやってあげるべきものであり、専門家が業として行うべきではないと思います。

~信託法条文~ 第11条/第12条 よ・つ・ば的解説付

(詐害信託の取消し等) 重要度2

第11条 委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害することを知っていたか否かにかかわらず、債権者は、受託者を被告として、民法(明治29年法律第89号)第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる。ただし、受益者が現に存する場合においては、当該受益者(当該受益者の中に受益権を譲り受けた者がある場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)の全部が、受益者としての指定(信託行為の定めにより又は第89条第1項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定されることをいう。以下同じ。)を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において債権者を害することを知っていたときに限る。

信託の倒産隔離機能を悪用しようとする事例も有り得るので、民法における詐害行為取消権と同様の債権者の権利を別途に条文で認めており、この点でも信託において当然に民法の規定が準用されるものではないことが示されている。

なお、民法改正に伴い、条文の表現の一部が改正されている。

ここでは善意の受益権取得者を保護している。

 前項の規定による詐害行為取消請求を認容する判決が確定した場合において、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者(委託者であるものを除く。)が当該債権を取得した時において債権者を害することを知らなかったときは、委託者は、当該債権を有する債権者に対し、当該信託財産責任負担債務について弁済の責任を負う。ただし、同項の規定による詐害行為取消請求により受託者から委託者に移転する財産の価額を限度とする。

本項では、取り消し時において善意の信託財産責任負担債務の債権者を保護するため、委託者に責任を負わせている。

 前項の規定の適用については、第49条第1項(第53条第2項及び第54条第4項において準用する場合を含む。)の規定により受託者が有する権利は、金銭債権とみなす。

49条1項は受託者による信託財産からの費用償還の規定であり、取り消された信託に関しての信託報酬などを指すものと思われる。

 委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合において、受益者が受託者から信託財産に属する財産の給付を受けたときは、債権者は、受益者を被告として、民法第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる。ただし、当該受益者(当該受益者が受益権を譲り受けた者である場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)が、受益者としての指定を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において債権者を害することを知っていたときに限る。

1項同様、善意の受益者を保護している。

 委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、債権者は、受益者を被告として、その受益権を委託者に譲り渡すことを訴えをもって請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

1項の取消権以外にも債権者が受益権の譲渡を求める方法があると規定している。

 民法第426条の規定は、前項の規定による請求権について準用する。

 民法426条には「詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。」とある。

 受益者の指定又は受益権の譲渡に当たっては、第1項本文、第4項本文又は第5項前段の規定の適用を不当に免れる目的で、債権者を害することを知らない者(以下この項において「善意者」という。)を無償(無償と同視すべき有償を含む。以下この項において同じ。)で受益者として指定し、又は善意者に対し無償で受益権を譲り渡してはならない。

本条の潜脱目的をもって受益権を無償譲渡することを禁じている。

 前項の規定に違反する受益者の指定又は受益権の譲渡により受益者となった者については、第1項ただし書及び第4項ただし書(第5項後段において準用する場合を含む。)の規定は、適用しない。

前項に続き、本条の潜脱を封じている。

(詐害信託の否認等) 重要度2

第12条 破産者が委託者としてした信託における破産法(平成16年法律第75号)第160条第1項の規定の適用については、同項各号中「これによって利益を受けた者が、その行為の当時」とあるのは「受益者が現に存する場合においては、当該受益者(当該受益者の中に受益権を譲り受けた者がある場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)の全部が信託法第11条第1項に規定する受益者としての指定を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において」と、「知らなかったときは、この限りでない」とあるのは「知っていたときに限る」とする。

 破産法160条は、破産債権者を害する行為を否認できることを定めており、受益者を否認の対象としている。

 ここも民法改正に合わせて条文が改正されている。

 破産者が破産債権者を害することを知って委託者として信託をした場合には、破産管財人は、受益者を被告として、その受益権を破産財団に返還することを訴えをもって請求することができる。この場合においては、前条第4項ただし書の規定を準用する。

受益者の善意悪意によって扱いを分けている。

 再生債務者が委託者としてした信託における民事再生法(平成11年法律第225号)第127条第1項の規定の適用については、同項各号中「これによって利益を受けた者が、その行為の当時」とあるのは「受益者が現に存する場合においては、当該受益者(当該受益者の中に受益権を譲り受けた者がある場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)の全部が信託法(平成18年法律第108号)第11条第1項に規定する受益者としての指定を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において」と、「知らなかったときは、この限りでない」とあるのは「知っていたときに限る」とする。

民事再生についても前項までと同じ取り扱いを定めている。

 再生債務者が再生債権者を害することを知って委託者として信託をした場合には、否認権限を有する監督委員又は管財人は、受益者を被告として、その受益権を再生債務者財産(民事再生法第12条第1項第1号に規定する再生債務者財産をいう。第25条第4項において同じ。)に返還することを訴えをもって請求することができる。この場合においては、前条第4項ただし書の規定を準用する。

  前項に同じ

 前二項の規定は、更生会社(会社更生法(平成14年法律第154号)第2条第7項に規定する更生会社又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成8年法律第95号)第169条第7項に規定する更生会社をいう。)又は更生協同組織金融機関(同法第4条第7項に規定する更生協同組織金融機関をいう。)について準用する。この場合において、第3項中「民事再生法(平成11年法律第225号)第127条第1項」とあるのは「会社更生法(平成14年法律第154号)第86条第1項並びに金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成8年法律第95号)第57条第1項及び第223条第1項」と、「同項各号」とあるのは「これらの規定」と、前項中「再生債権者」とあるのは「更生債権者又は更生担保権者」と、「否認権限を有する監督委員又は管財人」とあるのは「管財人」と、「再生債務者財産(民事再生法第12条第1項第1号に規定する再生債務者財産をいう。第25条第4項において同じ。)」とあるのは「更生会社財産(会社更生法第2条第14項に規定する更生会社財産又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第169条第14項に規定する更生会社財産をいう。)又は更生協同組織金融機関財産(同法第4条第14項に規定する更生協同組織金融機関財産をいう。)」と読み替えるものとする。

会社更生等についても前項までと同じ取り扱いを定めている。

~信託法条文~ 第9条/第10条 よ・つ・ば的解説付

(脱法信託の禁止) 重要度2

第9条 法令によりある財産権を享有することができない者は、その権利を有するのと同一の利益を受益者として享受することができない。

例えば他の法律で財産の所有を禁止されている者(一定種類の財産に関しての外国人など)に、別人名義を利用できる信託によって実質的に財産権を保有させる目的で組成された信託などが脱法信託となるとしているが、単に「禁止されている者」が受益者としての地位を得るだけで脱法信託となったり、信託全体が無効になるとは読み取れない。

脱税目的で、本当は所有権移転なのに「信託」として登記する事例があるが、これは脱法信託と言うよりも単に虚偽の登記ということになるであろう。

(訴訟信託の禁止) 重要度2

第10条 信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。

例えば、訴訟を抱えた財産を敢えて信託財産とすることによって受託者を訴訟当事者とするような行為を禁止しているが、「主たる目的」としてはならないとあるだけなので、結果的に受託者が訴訟当事者になることは当然に認められる。

本条は、信託法というよりも、弁護士法の脱法を規制する目的が大きいのではと思われる。