~信託法条文~ 第21条/第22条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産責任負担債務の範囲)重要度MAX

第21条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

誤って解釈されている部分も多く、極めて重要な条文である。

そもそも日本の信託法では「債務」は信託の対象とならないことが大原則であり、信託財産責任負担債務とは、その例外をなすものである。

また信託財産責任負担債務の債務者とは、本来は「信託財産」自体であり、すなわち物的有限責任となるべき債務なのであるが、日本の債権法及び金融実務では債務者は必ず「人」であり、財産そのものを債務者とするという発想が存在しないため、結局は名義人である受託者が個人として無限責任を負うという構成となってしまう。

しかし、受託者は信託法第8条で信託の利益を享受できないと規定されており、かつ商事信託のように受託者報酬の受領が前提とはされていない親愛信託のスキームにおいて、受託者が無限責任でもって債務を引き受けさせられるのは、いかにも理不尽な話である。

その意味から、本来の信託財産責任負担債務は本条第2項に定める「信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う」とする「限定責任信託」に限るべきである。

しかし、現実には受託者に無限責任を負わせる理不尽な融資が実行されており、本条の抜本的な改正が求められる。

 受益債権

受益債権は民法上の債権とは異なり、性状変換説においては受託者に託してある受益者本人のものである信託財産を受益者本人が受け取る(受け取った財産は信託から離脱する)という構造になるので、債権という名が付いていても民法上での「請求権」とは全く異なる信託独自の概念となる。

 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利

例えば元々あった不動産の瑕疵に対する賠償請求債務などを指すものと思われ、立法者の一部が著書で述べているような「住宅ローン」などは該当しない。

何故なら日本の住宅ローンはアメリカのような「ノン・リコース・ローン(実質的に人ではなくモノが債務者であるローン)」ではなく、不動産とは直接の関係なく債務者個人に貸し出される「リコース・ローン」という仕組みになっており、不動産に関しては抵当権の設定でもって保全しているだけであるからである。 

また、よく例として挙げられている「賃貸不動産にかかる敷金」であるが、これは信託契約とは無関係の賃貸借契約から発生するものであるが、賃貸借契約は必ずしも不動産そのものだけを対象としている訳ではなく、かつ信託不動産とは別の金銭で弁済すべき債務であるため、必ずしも本号に定める債務であるとは考えられない。

固定資産税債務も同様で、これも信託契約とは無関係に「所有者個人」に対して発生するものであるから、やはり本号にかかる債務とは言い切れない。

その意味では、本号に該当する債務が実際に何であるかは、実はまだ明らかではないということになる。

 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

ここで言う債務は、信託行為でもって信託財産責任負担債務に指定した債務であると想定されるので、その債務の種類には制限はないが、現行のように受託者個人を債務者として無限責任を負わす仕組みであれば、限定責任債務でない限り、債権者にとっては、どのみち債務者である受託者個人相手の債務となるので、あまり意味をなさない。

 第103条第1項又は第2項の規定による受益権取得請求権

受益権取得請求権は信託から離脱する受益者に対して信託財産から対価を支払う制度であるから、純粋な信託内での債権債務であり、信託財産責任負担債務と言えよう。

 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利

 ここで言う「信託財産のためにした行為」とは、例えば信託不動産を保全管理あるいは修繕等をするために行った借入などを指しており、受託者が新規に信託財産を追加するために金銭を借り入れる行為、いわゆる「受託者借入」が含まれるという解釈は成り立ち得ない。

 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属しないもののうち、次に掲げるものによって生じた権利

 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合を含む。ロにおいて同じ。)の規定により取り消すことができない行為(当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知らなかったもの(信託財産に属する財産について権利を設定し又は移転する行為を除く。)を除く。)

 第27条第1項又は第2項の規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないもの

  受託者が権限外で行った行為であっても、債権者保護のために信託財産にも責任が負わされるとする規定である。

 第31条第6項に規定する処分その他の行為又は同条第7項に規定する行為のうち、これらの規定により取り消すことができない行為又はこれらの規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないものによって生じた権利

  前号と同じ。

 受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利

  受託者が行った不法行為による債務も信託財産にも責任がかかるとしている。

 第5号から前号までに掲げるもののほか、信託事務の処理について生じた権利

受託者の権限に属するか属さないかに関わらず、信託事務の処理について生じた債務については信託財産にも責任を負わせることとしている。

 信託財産責任負担債務のうち次に掲げる権利に係る債務について、受託者は、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う。

  この第2項が限定責任信託の規定であり、本来の信託財産責任負担債務である。

 受益債権

受益債権の性格については諸説あるが、少なくとも受託者個人が無限責任を負う性質の債務ではないことが明らかになっている。

 信託行為に第216条第1項の定めがあり、かつ、第232条の定めるところにより登記がされた場合における信託債権(信託財産責任負担債務に係る債権であって、受益債権でないものをいう。以下同じ。)

限定責任信託であると登記された債務を指しており、これこそが本来の信託財産責任負担債務であると言える。

 前二号に掲げる場合のほか、この法律の規定により信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものとされる場合における信託債権

 信託債権を有する者(以下「信託債権者」という。)との間で信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の合意がある場合における信託債権

  本号により、債権者との合意で限定責任債務を作ることは可能であるが、実際には日本の債権法、金融制度、そして税制との関係で合意による設定は困難であると思われる。

(信託財産に属する債権等についての相殺の制限) 重要度2            第22条 受託者が固有財産又は他の信託の信託財産(第1号において「固有財産等」という。)に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務(第1号及び第2号において「固有財産等責任負担債務」という。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって信託財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

 当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該信託財産に属する債権が固有財産等に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合

 当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産等責任負担債務が信託財産責任負担債務でないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合

 前項本文の規定は、第31条第2項各号に掲げる場合において、受託者が前項の相殺を承認したときは、適用しない。

 信託財産責任負担債務(信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものに限る。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって固有財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、当該信託財産責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該固有財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産に属する債権が信託財産に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合は、この限りでない。

 前項本文の規定は、受託者が同項の相殺を承認したときは、適用しない。

信託財産と受託者の固有財産との峻別から、相殺についての民法の一般原則と異なる規定を置いているが、常識的な内容である。

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