親愛信託の可能性とそれを支えるもの

 「遺留分制度」のことはよく知られるようになってきました。「すべての遺産をAに。」という遺言を残しても、A以外の相続人(兄弟甥姪を除く)には、その法定相続分の2分の1の金額はAに請求できるという制度です。

 遺留分侵害額を下げ、また遺留分侵害請求されたときの現金を用意するため、生命保険を利用することができます。保険金が遺産に含まれないことを利用したものです。

 親愛信託=民事信託を利用した場合はどうでしょうか。

 「遺留分制度を逸脱することを目的とした信託組成は公序良俗に反して無効」との判決が出たことはよく知られています。(平成30年9月12日東京地裁判決)

 しかし、この判決が確定することなく高裁で和解となったことは残念ながらあまり知られていません。原告被告双方が、当該信託契約が全部有効であることを前提とした、裁判上の和解で終結しているのです。

 これは、信託契約は民法の特則ではなく、独立した法律であって、民法相続規定である遺留分の影響を受けないという考え方が背景にあります。

生命保険契約は生前の契約であって、保険金は相続財産ではなく、保険金の受け取りも相続によるものではなく、契約によるものであるというのと同様に、親愛信託による財産の承継も、相続ではない、信託契約によるものであると、私たちよつばグループは主張しています。

が、残念ながら、まだまだこの考え方は主流ではありません。

「信託法は民法の特則ではあるが、遺留分制度は絶対であり、信託契約も遺留分の適用からは逃れられない」というのが主流派の考えです。

新しい民事信託法が施行されて、まだ10数年。遺留分に関する確定判例が出ていないので、信託と遺留分の考え方には確としたものがまだありません。

民事信託=親愛信託は、委託者が受託者を信じて、自分の財産を託す制度です。何の問題もなければわざわざ信託しなくても相続人全員を信じて平等に相続を俟つことが通常でしょうが、敢えて信託契約を結ぶというのは、自分の財産の行く末は自分の意思で決めたいとの意味合いが大きいのではないでしょうか。また、悪平等ではなく、自分の思いを信託契約を通して相続人皆に伝えて、実質的な平等を与えたいという思いもあるでしょう。

私たちは、そのような、信託契約は遺留分制度に影響されないとの信託の可能性を信じて、信託契約が相続法の特則ではないことの実例を積み重ねていきたいと思っています。

そのためには、依頼者の方のご理解が絶対に必要です。

遺留分を排除した信託契約で、二次受益者は遺留分権利者から訴訟を起こされる可能性があります。そのリスクを納得して、それでもあえて遺留分制度に束縛されない信託契約を結びたい。そういう依頼者の方の強い意思が、信託の可能性を広げていくものだと信じています。 

一般社団法人よ・つ・ば民事信託協会大阪 理事 濵田 誠子

いわゆるデジタル資産の相続・承継について

近年、ネット銀行・ネット証券、暗号資産といったものをスマートフォンで管理できるようになり、インターネット上で資産を管理することも当たり前になってきました。

今後より多く問題になってくるのが、管理者が亡くなった後、認知症等で意思表示が困難になった後のデジタル資産はどうなってしまうのかという点です。デジタル資産自体は登場してから時間がたっておらず、相続等の件数もまだ多くありませんが、今後デジタル資産の問題は確実に増加していきます。もしもの時に備えて今のうちから対策について考えておくことが大切です。

1.デジタル資産とは

  デジタル資産とは、「インターネット上で管理される資産」で、現金化できるデータがIDやパスワードなどの本人認証によって管理されています。典型的なものとして、ネット銀行の預金データ、ネット証券の投資信託・株等のデータ、暗号資産(仮想通貨)、電子マネー、マイルやポイントなどがあります。

2.デジタル資産ならではの問題

  デジタル資産は、取引記録などがほぼ全てネット上で完結するため、本人がデジタル資産の有無、ID・パスワードなどを残しておかないと、誰にも気づかれないまま放置されることになりかねません。

 従来からの資産については、預金通帳、不動産の登記、証券会社からの通知といったような現物の手がかりから遺産の存在を知ることができます。

  これに対して、デジタル資産の有無を調べるには、スマートフォンやパソコン上で管理されるデータから、探っていくより方法がありません。万が一スマートフォンやパソコンが処分されてしまうと捜索自体が困難になる恐れもあります。 

さらに、デジタル資産に明るい専門家が少ないということも問題です。相続の専門家ではあっても、デジタル資産の相続の取り扱い件数がまだまだ少なく、知識を得るのも難しいのが現状です。

また、デジタル資産には様々なものがあり、すべてを横断的に理解することが難しいという点があります。たとえば、暗号資産ひとつとっても、これらの取り扱いに関する、かなり幅広い知識と経験が要求されます。

3.スムーズなデジタル資産の相続・承継のために

  いちばん重要なのは、現在所有しているデジタル資産を管理表でまとめておくということです。たとえば、所有しているデジタル資産、ID、パスワード、スマートフォンのパスワードなどを、パソコンやスマホだけでなくノートなどのアナログの媒体にも記録しておくことが重要です。Excelなどで記録したものも紙に印刷しておいて、特定の場所に保管しておく必要があります。家族には、事前に、何らかの方法で伝えておくのも重要です。 

  あと、有料のネットサービスなど、退会しない限り自動的に支払いが発生する物も忘れずに記録しておく必要があります。

4.まとめ

資産の相続・承継については、管理表にまとめ、残される家族に資産のありかを伝えておくということは、現物資産においても重要ですが、デジタル資産おいては特に重要な唯一の対策と言っていいかもしれません。

  残される家族が困らないよう、今のうちから対策をしておきましょう。

一般社団法人親愛信託名古屋 理事 相馬保宏