~信託法条文~ 第59条/第60条 よ・つ・ば的解説付

第二款 前受託者の義務等

【前受託者の通知及び保管の義務等】 重要度3

第59条 第56条第1項第3号から第7号までに掲げる事由により受託者の任務が終了した場合には、受託者であった者(以下「前受託者」という。)は、受益者に対し、その旨を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受託者の後見開始など受益者が知り得ない場合もあるであろうから、通知の義務を課しているが、別段の定めも有効である。

 第56条第1項第3号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合には、前受託者は、破産管財人に対し、信託財産に属する財産の内容及び所在、信託財産責任負担債務の内容その他の法務省令で定める事項を通知しなければならない。

受託者破産の場合には、破産管財人の関与を求めている。

 第56条第1項第4号から第7号までに掲げる事由により受託者の任務が終了した場合には、前受託者は、新たな受託者(第64条第1項の規定により信託財産管理者が選任された場合にあっては、信託財産管理者。以下この節において「新受託者等」という。)が信託事務の処理をすることができるに至るまで、引き続き信託財産に属する財産の保管をし、かつ、信託事務の引継ぎに必要な行為をしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その義務を加重することができる。

 受託者の任務が終了した後も、必要な範囲で義務の承継(いわゆる権利義務承継)を課しており、別段の定めで「加重」は可能でも「軽減」は不可能とされている。

 前項の規定にかかわらず、第56条第1項第5号に掲げる事由(第57条第1項の規定によるものに限る。)により受託者の任務が終了した場合には、前受託者は、新受託者等が信託事務の処理をすることができるに至るまで、引き続き受託者としての権利義務を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

受託者辞任の場合は前項とは異なり、別段の定めでもって柔軟に決めることができる。

 第3項の場合(前項本文に規定する場合を除く。)において、前受託者が信託財産に属する財産の処分をしようとするときは、受益者は、前受託者に対し、当該財産の処分をやめることを請求することができる。ただし、新受託者等が信託事務の処理をすることができるに至った後は、この限りでない。

 いわゆる「権利義務承継」の場合、受託者による財産の処分を受益者が制限することができるとしている。(逆に読むと通常時は受益者は受託者の行為を制限できないということになる)

【前受託者の相続人等の通知及び保管の義務等】 重要度3

第60条 第56条第1項第1号又は第2号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、前受託者の相続人(法定代理人が現に存する場合にあっては、その法定代理人)又は成年後見人若しくは保佐人(以下この節において「前受託者の相続人等」と総称する。)がその事実を知っているときは、前受託者の相続人等は、知れている受益者に対し、これを通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 非常に珍しく「相続人」や「後見人」が登場するが、これは相続人や後見人が受託者の地位を得て行動するのではなく、あくまでも通知の義務を負うだけの規定である。

 第56条第1項第1号又は第2号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合には、前受託者の相続人等は、新受託者等又は信託財産法人管理人が信託事務の処理をすることができるに至るまで、信託財産に属する財産の保管をし、かつ、信託事務の引継ぎに必要な行為をしなければならない。

 前項と同じく、受託者の相続人や後見人に「信託財産の保管義務」を課している。

 前項の場合において、前受託者の相続人等が信託財産に属する財産の処分をしようとするときは、受益者は、これらの者に対し、当該財産の処分をやめることを請求することができる。ただし、新受託者等又は信託財産法人管理人が信託事務の処理をすることができるに至った後は、この限りでない。

 前条第5項の規定を準用している。

 第56条第1項第3号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合には、破産管財人は、新受託者等が信託事務を処理することができるに至るまで、信託財産に属する財産の保管をし、かつ、信託事務の引継ぎに必要な行為をしなければならない。

 前項に同じ

 前項の場合において、破産管財人が信託財産に属する財産の処分をしようとするときは、受益者は、破産管財人に対し、当該財産の処分をやめることを請求することができる。ただし、新受託者等が信託事務の処理をすることができるに至った後は、この限りでない。

 前項に同じ

 前受託者の相続人等又は破産管財人は、新受託者等又は信託財産法人管理人に対し、第1項、第2項又は第4項の規定による行為をするために支出した費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

 本来は義務を負わない筈の相続人等を保護するための規定である。

 第49条第6項及び第7項の規定は、前項の規定により前受託者の相続人等又は破産管財人が有する権利について準用する。

 前項までの相続人等に対して、優先弁債権を与えている。

~信託法条文~ 第57条/第58条 よ・つ・ば的解説付

(受託者の辞任) 重要度5

第57条 受託者は、委託者及び受益者の同意を得て、辞任することができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受託者は別段の定めがない限り、委託者及び受益者の同意がなければ辞任できないとされており、親愛信託においては委託者の関与が困難な場合が少なくないので、別段の定めを置くべき事項となる。

 受託者は、やむを得ない事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。

例外的に裁判所の許可を辞任の要件としている。

 受託者は、前項の許可の申立てをする場合には、その原因となる事実を疎明しなければならない。

 疎明であるから、証明とは違って必ずしも厳格な理由は必要ない。

 第2項の許可の申立てを却下する裁判には、理由を付さなければならない。

 第2項の規定による辞任の許可の裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

 裁判手続き上の規定である。

 委託者が現に存しない場合には、第1項本文の規定は、適用しない。

 「現に存しない場合」とは、委託者の地位が消滅した後などを指しており、「第1項本文を適用しない」の解釈について、受益者のみの同意で良いのか、受益者の同意も不要なのかは明らかではないので、やはり別段の定めを置くべきところであろう。

(受託者の解任) 重要度5

第58条 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、受託者を解任することができる。

委託者と受益者が合意すれば、いつでも受託者は解任できるということなので、この条項が適用されるなら、成年後見人が委託者と受益者に代わって受託者を解任することが可能という解釈も可能となるなど、受託者の地位が不安定になってしまうので、注意が必要である。

ただし、財産的地位である受益者はともかくとして、財産とは無関係である委託者の地位を成年後見人が代理できるか否かについては議論の必要がある。

 委託者及び受益者が受託者に不利な時期に受託者を解任したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

 これは商事信託の受託者を想定している条項であると思われる。

 前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

解任権の濫用を回避するためにも、別段の定めは必須であろう。

 受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、委託者又は受益者の申立てにより、受託者を解任することができる。

 裁判所は、前項の規定により受託者を解任する場合には、受託者の陳述を聴かなければならない。

 第4項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。

 第4項の規定による解任の裁判に対しては、委託者、受託者又は受益者に限り、即時抗告をすることができる。

 裁判による解任の規定であり、親愛信託には馴染まない。

 委託者が現に存しない場合には、第1項及び第2項の規定は、適用しない。

前条第6項と同様である。

~信託法条文~ 第55条/第56条 よ・つ・ば的解説付

(受託者による担保権の実行)重要度1 

第55条

担保権が信託財産である信託において、信託行為において受益者が当該担保権によって担保される債権に係る債権者とされている場合には、担保権者である受託者は、信託事務として、当該担保権の実行の申立てをし、売却代金の配当又は弁済金の交付を受けることができる。

 担保権を信託財産とすることを信託法では認めており、担保権にかかる債権自体が信託財産とされていなくても、受託者は信託事務として担保権の実行が可能としているが、親愛信託において想定される場面ではない。

第五節 受託者の変更等

第一款 受託者の任務の終了

(受託者の任務の終了事由) 重要度5     

第56条 受託者の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次に掲げる事由によって終了する。ただし、第2号又は第3号に掲げる事由による場合にあっては、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 受託者である個人の死亡

受託者の死亡が任務終了事由とされているところから、受託者の地位は一身専属で相続の対象にならないことが明確になっている。

 受託者である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと。

第7条の改正によって、成年被後見人や被保佐人は受託者になることができるようになったが、本条では一応は任務終了とした上で、別段の定めでもって受託者の地位を継続させることができるとしている。

 受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。

受託者の破産は、財産管理能力の喪失と捉えられているが、前号同様に別段の定めでもって受託者の地位を継続させることができるとしている。

 受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと。

個人受託者の死亡とパラレルな規定であり、合併では任務終了しないことが明確にされている。

 次条の規定による受託者の辞任

 第58条の規定による受託者の解任

 辞任と解任は当然の終了事由である。

 信託行為において定めた事由

 信託行為でもって自由に任務終了事由を定めることが可能とされている。

 受託者である法人が合併をした場合における合併後存続する法人又は合併により設立する法人は、受託者の任務を引き継ぐものとする。受託者である法人が分割をした場合における分割により受託者としての権利義務を承継する法人も、同様とする。

 合併と会社分割について、その形態に関係なく受託者の地位を承継するとの規定である。

 前項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 別段の定めでもって合併や会社分割による承継を封じることも可能である。

 第1項第3号に掲げる事由が生じた場合において、同項ただし書の定めにより受託者の任務が終了しないときは、受託者の職務は、破産者が行う。

別段の定めによって、破産後も受託者としての地位を継続させる余地を残している。

 受託者の任務は、受託者が再生手続開始の決定を受けたことによっては、終了しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

再生手続きは破産とは異なるので、別段の定めがない限り受託者の地位は継続する。

 前項本文に規定する場合において、管財人があるときは、受託者の職務の遂行並びに信託財産に属する財産の管理及び処分をする権利は、管財人に専属する。保全管理人があるときも、同様とする。

 再生手続きにおいて管財人が選任された場合には、意思決定は管財人に委ねられることとなる。

 前二項の規定は、受託者が更生手続開始の決定を受けた場合について準用する。この場合において、前項中「管財人があるとき」とあるのは、「管財人があるとき(会社更生法第74条第2項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第47条及び第213条において準用する場合を含む。)の期間を除く。)」と読み替えるものとする。

会社更生についても、同様の規定が準用されるとしている。従って、破産でも再生でも更生でもない任意整理の場合には、受託者に地位に影響を及ぼさないということになる。

~信託法条文~ 第53条/第54条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産からの損害の賠償) 重要度2                       第53条 受託者は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める損害の額について、信託財産からその賠償を受けることができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 受託者が信託事務を処理するため自己に過失なく損害を受けた場合 当該損害の額

 受託者が信託事務を処理するため第三者の故意又は過失によって損害を受けた場合(前号に掲げる場合を除く。) 当該第三者に対し賠償を請求することができる額

 第48条第4項及び第5項、第49条(第6項及び第7項を除く。)並びに前二条の規定は、前項の規定による信託財産からの損害の賠償について準用する。

 受託者の固有財産を守るための規定であるが、別段の定めを認めているので、柔軟な規定を作ることも可能である。

(受託者の信託報酬) 重要度4

第54条 受託者は、信託の引受けについて商法(明治32年法律第48号)第512条の規定の適用がある場合のほか、信託行為に受託者が信託財産から信託報酬(信託事務の処理の対価として受託者の受ける財産上の利益をいう。以下同じ。)を受ける旨の定めがある場合に限り、信託財産から信託報酬を受けることができる。

親愛信託においても、信託行為に定めることによって受託者が報酬を受けることが可能となる根拠条文である。

 前項の場合には、信託報酬の額は、信託行為に信託報酬の額又は算定方法に関する定めがあるときはその定めるところにより、その定めがないときは相当の額とする。

もし信託行為に報酬額の定めがなくとも「相当の額」を受領できると定めている。

 前項の定めがないときは、受託者は、信託財産から信託報酬を受けるには、受益者に対し、信託報酬の額及びその算定の根拠を通知しなければならない。

定めがなくても報酬は受領できるとしているが、報酬を受ける場合は、必須ではないがやはり事前に定めておく方がトラブルを避けることができる場合が多いと想定される。

 第48条第4項及び第5項、第49条(第6項及び第7項を除く。)、第51条並びに第52条並びに民法第648条第2項及び第3項並びに第648条の2の規定は、受託者の信託報酬について準用する。

費用の償還や前払いについて本条を準用している。

なお、民法改正に合わせて、条文の一部が改正されている。

~信託法条文~ 第51条/第52条 よ・つ・ば的解説付

(費用等の償還等と同時履行) 重要度2                     

第51条 受託者は、第49条第1項の規定により受託者が有する権利が消滅するまでは、受益者又は第182条第1項第2号に規定する帰属権利者に対する信託財産に係る給付をすべき債務の履行を拒むことができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

償還や前払いの場合の規定で、同時履行を求めているが、やはり対立関係が前提の商事信託のための規定であると思われる。

(信託財産が費用等の償還等に不足している場合の措置) 重要度3         

第52条 受託者は、第48条第1項又は第2項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けるのに信託財産(第49条第2項の規定により処分することができないものを除く。第1号及び第4項において同じ。)が不足している場合において、委託者及び受益者に対し次に掲げる事項を通知し、第2号の相当の期間を経過しても委託者又は受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けなかったときは、信託を終了させることができる。

 信託財産が不足しているため費用等の償還又は費用の前払を受けることができない旨

 受託者の定める相当の期間内に委託者又は受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けないときは、信託を終了させる旨

受託者の固有財産を守るための規定であり、信託法では珍しく、一方当事者による信託終了を認めているので、親愛信託においても利用の場面があるのかも知れない。

なお、この終了事由は第163条第4項に引用されており、引用されていない第91条とは異なる取り扱いとなっている。

 委託者が現に存しない場合における前項の規定の適用については、同項中「委託者及び受益者」とあり、及び「委託者又は受益者」とあるのは、「受益者」とする。

 常識的な条項であるが、委託者不存在の信託が有り得るということを条文上で示している規定でもある。

 受益者が現に存しない場合における第1項の規定の適用については、同項中「委託者及び受益者」とあり、及び「委託者又は受益者」とあるのは、「委託者」とする。

 受益者が存しない信託は親愛信託の前提にはないが、ここでは委託者に責任を負わせているので、注意が必要である。

 第48条第1項又は第2項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けるのに信託財産が不足している場合において、委託者及び受益者が現に存しないときは、受託者は、信託を終了させることができる。

 これも受託者による信託終了を可能とする規定である。

~信託法条文~ 第49条/第50条 よ・つ・ば的解説付

(費用等の償還等の方法) 重要度2

第49条 受託者は、前条第1項又は第2項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けることができる場合には、その額の限度で、信託財産に属する金銭を固有財産に帰属させることができる。

償還や前払いの場合の規定で、当然のことを定めている。

 前項に規定する場合において、必要があるときは、受託者は、信託財産に属する財産(当該財産を処分することにより信託の目的を達成することができないこととなるものを除く。)を処分することができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

金銭信託が足りない場合などにおいて、信託財産の処分を認めている。

 第1項に規定する場合において、第31条第2項各号のいずれかに該当するときは、受託者は、第1項の規定により有する権利の行使に代えて、信託財産に属する財産で金銭以外のものを固有財産に帰属させることができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

利益相反行為の許容によって受託者が信託財産を取得する場合には、金銭以外の信託財産を直接取得できるとする規定である。

 第1項の規定により受託者が有する権利は、信託財産に属する財産に対し強制執行又は担保権の実行の手続が開始したときは、これらの手続との関係においては、金銭債権とみなす。

 信託財産に対して受託者が持つ債権として一定の保護がされている。

 前項の場合には、同項に規定する権利の存在を証する文書により当該権利を有することを証明した受託者も、同項の強制執行又は担保権の実行の手続において、配当要求をすることができる。

受託者も債権の範囲においては他の債権者と同等の権利が認められている。

 各債権者(信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者に限る。以下この項及び次項において同じ。)の共同の利益のためにされた信託財産に属する財産の保存、清算又は配当に関する費用等について第1項の規定により受託者が有する権利は、第4項の強制執行又は担保権の実行の手続において、他の債権者(当該費用等がすべての債権者に有益でなかった場合にあっては、当該費用等によって利益を受けていないものを除く。)の権利に優先する。この場合においては、その順位は、民法第307条第1項に規定する先取特権と同順位とする。

公平の観点から、受託者の持つ債権に一定範囲での優先権を認めている。

 次の各号に該当する費用等について第1項の規定により受託者が有する権利は、当該各号に掲げる区分に応じ、当該各号の財産に係る第4項の強制執行又は担保権の実行の手続において、当該各号に定める金額について、他の債権者の権利に優先する。

 信託財産に属する財産の保存のために支出した金額その他の当該財産の価値の維持のために必要であると認められるもの その金額

 信託財産に属する財産の改良のために支出した金額その他の当該財産の価値の増加に有益であると認められるもの その金額又は現に存する増価額のいずれか低い金額

 前項の優先権に関する具体的規定である。

(信託財産責任負担債務の弁済による受託者の代位) 重要度4

第50条 受託者は、信託財産責任負担債務を固有財産をもって弁済した場合において、これにより前条第1項の規定による権利を有することとなったときは、当該信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者に代位する。この場合においては、同項の規定により受託者が有する権利は、その代位との関係においては、金銭債権とみなす。

信託財産責任負担債務においては、我が国では受託者が個人として債務者となる構成しか取れないため、受託者が個人財産からの弁済を余儀なくされるケースが考えられ、その場合には弁済先の債権者の権利を引き継ぐことが可能として救済の一つとしているのではないかと考えられるが、実際に受託者が個人財産から弁済をするケースでは信託財産は既に破綻している可能性が高いので、実効性は薄いのではないかと思われる。

 前項の規定により受託者が同項の債権者に代位するときは、受託者は、遅滞なく、当該債権者の有する債権が信託財産責任負担債務に係る債権である旨及びこれを固有財産をもって弁済した旨を当該債権者に通知しなければならない。

前項のケースにおける具体的取り扱いを定めている。

~信託法条文~ 第47条/第48条 よ・つ・ば的解説付

第47条 重要度1                              

前条第2項の検査役は、その職務を行うため必要があるときは、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求め、又は当該信託に係る帳簿、書類その他の物件を調査することができる。

 前条第2項の検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を裁判所に提供して報告をしなければならない。

 裁判所は、前項の報告について、その内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、前条第2項の検査役に対し、更に前項の報告を求めることができる。

 前条第2項の検査役は、第2項の報告をしたときは、受託者及び同条第1項の申立てをした受益者に対し、第2項の書面の写しを交付し、又は同項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供しなければならない。

 受託者は、前項の規定による書面の写しの交付又は電磁的記録に記録された事項の法務省令で定める方法による提供があったときは、直ちに、その旨を受益者(前条第1項の申立てをしたものを除く。次項において同じ。)に通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 裁判所は、第2項の報告があった場合において、必要があると認めるときは、受託者に対し、同項の調査の結果を受益者に通知することその他の当該報告の内容を周知するための適切な措置をとるべきことを命じなければならない。

紛争を前提とした規定であり、親愛信託には馴染まない。

第四節 受託者の費用等及び信託報酬等

(信託財産からの費用等の償還等) 重要度4                   

第48条 受託者は、信託事務を処理するのに必要と認められる費用を固有財産から支出した場合には、信託財産から当該費用及び支出の日以後におけるその利息(以下「費用等」という。)の償還を受けることができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受託者が固有財産から信託に関する費用を支出した場合の償還の規定で、親愛信託でも適用されるが、本条では別段の定めが広く認められているので、ケースに応じて信託契約の内容を調整することが可能となっている。

 受託者は、信託事務を処理するについて費用を要するときは、信託財産からその前払を受けることができる。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 必要費用の前払いも認めている。

 受託者は、前項本文の規定により信託財産から費用の前払を受けるには、受益者に対し、前払を受ける額及びその算定根拠を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

前払いのルールを定めているが、信頼関係の強い親愛信託においては重要視する必要はないであろう。

 第1項又は第2項の規定にかかわらず、費用等の償還又は費用の前払は、受託者が第40条の規定による責任を負う場合には、これを履行した後でなければ、受けることができない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受託者の損失補てん義務との関係であるが、これも親愛信託では問題にならないであろう。

 第1項又は第2項の場合には、受託者が受益者との間の合意に基づいて当該受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けることを妨げない。

信託財産だけではなく受益者個人の財産からの前払いも認めており、個人間で行う親愛信託の実務に即した規定であると思われる。

成年後見制度と信託

 昨今、ちまたで「成年後見制度」と「信託制度」の優劣が二項対立的に論じられることがありますが、そもそも、このふたつの制度は役割も制度趣旨も異にするもので、「制度としてどちらが良いか」という議論はあまり生産性がないのではないか、という気がします。

 むしろこの二つの制度を併用、共存されることでよりよい法サービスのご提案ができるかもしれません。

 たとえば、障がいをもったお子さんがいらっしゃるご家庭の親御さんが抱えていらっしゃる、「将来、自分たち親がなくなったあとも、子どもが経済的に安心して生活していける仕組みはないものか」という「親亡き後問題」。

 このケースでまず考えなければならないのは、親御さんの財産(=将来、お子さんに相続されるであろう財産)と、お子さん自身の固有財産がある、という点です。

 後者については、現行法上、お子さんが成人されると障害年金がお子さんの名義の口座に定期的に支給される仕組みとなっており、「親亡き後問題」に悩まれる親御さんのなかには、この障害年金は子の将来のために手を付けず全額プールしておいている、または一定額は必ず残すようにしている、というかたが少なくない、と聞きます。しかしながらこの親御さんたちの切実な思いを阻む残念な事実として、親なき後の障がい者の障害年金等の財産を狙って他の親族等が預金を引き出す、または本人に引き出させるといった「経済的虐待」の事案も水面下で発生しており、こういった周辺問題も予防していかなければなりません。

 上記のような「親亡き後問題」のケースにおいては、親御さん自身の財産は信託組成で、お子さん自身の固有財産は成年後見制度の利用で、というように併用することでより安定的な財産管理システムが構築できる事案が一定数あるのではないかと考えます。

 また、成年後見制度とは、もともと被後見人ご本人の自己決定権を尊重していくという趣旨のもと法制度化されたという立法背景があり、この成年後見制度の積極的活用と親御さんご自身の思いをこめた「親愛信託」の活用というふたつのツールの併用でよりよい相乗効果が期待でき、またこのような制度活用の仕方が普及することで、よりよいインクルーシブ社会の実現に向かっていくではないかと思います。

一般社団法人親愛信託名古屋 会員 司法書士 竹内亮介

~信託法条文~ 第45条/第46条 よ・つ・ば的解説付

(費用又は報酬の支弁等) 重要度1                      

 第45条 第40条、第41条又は前条の規定による請求に係る訴えを提起した受益者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士、弁護士法人、司法書士若しくは司法書士法人に報酬を支払うべきときは、その費用又は報酬は、その額の範囲内で相当と認められる額を限度として、信託財産から支弁する。

 前項の訴えを提起した受益者が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該受益者は、受託者に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。

紛争を前提とした規定であり、親愛信託には馴染まない。

(検査役の選任)重要度1                          

  第46条 受託者の信託事務の処理に関し、不正の行為又は法令若しくは信託行為の定めに違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、受益者は、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。

 前項の申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない。

 第1項の申立てを却下する裁判には、理由を付さなければならない。

 第1項の規定による検査役の選任の裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

 第2項の検査役は、信託財産から裁判所が定める報酬を受けることができる。

 前項の規定による検査役の報酬を定める裁判をする場合には、受託者及び第2項の検査役の陳述を聴かなければならない。

 第5項の規定による検査役の報酬を定める裁判に対しては、受託者及び第2項の検査役に限り、即時抗告をすることができる。

前条に同じ。

~信託法条文~ 第43条/第44条 よ・つ・ば的解説付

(損失塡補責任等に係る債権の期間の制限)重要度2

第43条 第40条の規定による責任に係る債権の消滅時効は、債務の不履行によって生じた責任に係る債権の消滅時効の例による。

受託者の損失てん補責任について民法の消滅時効を準用する条項なので、民法改正により変更になっているということである。

 第41条の規定による責任に係る債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

 受益者が当該債権を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

 当該債権を行使することができる時から10年間行使しないとき。

受託者法人の役員の連帯責任については別の規定を定めている。

 第40条又は第41条の規定による責任に係る受益者の債権の消滅時効は、受益者が受益者としての指定を受けたことを知るに至るまでの間(受益者が現に存しない場合にあっては、信託管理人が選任されるまでの間)は、進行しない。

 「知ってから」時効スタートとする規定である。

 前項に規定する債権は、受託者がその任務を怠ったことによって信託財産に損失又は変更が生じた時から20年を経過したときは、消滅する。

時効とは別の「除斥期間」について定めており、民法の一般原則が準用されている。

(受益者による受託者の行為の差止め) 重要度3              

第44条 受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

本来は商事信託の受託者の行為を差止めるための条項であるが、別段の定めが認められていないことから、親愛信託においても適用されることになるので、注意が必要である。

 受託者が第33条の規定に違反する行為をし、又はこれをするおそれがある場合において、当該行為によって一部の受益者に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

受益者が複数存在する場合の公平義務違反の差止めであるが、前項同様の注意は必要である。