~信託法条文~ 第149条/第150条 よ・つ・ば的解説付

第六章 信託の変更、併合及び分割

第一節 信託の変更

【関係当事者の合意等】 重要度4                        

第149条 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければならない。

信託行為の大原則として、当事者である委託者と受託者、財産権者である受益者の合意があれば自由に変更が可能としている。

 前項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定めるものによりすることができる。この場合において、受託者は、第1号に掲げるときは委託者に対し、第2号に掲げるときは委託者及び受益者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。

 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 受託者及び受益者の合意

委託者が定めた信託の目的に反しないなら、委託者を外しての変更も可としている。

 信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき 受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示

 受益者の利益に適合する内容であれば、受託者単独でも変更可としている。

 前二項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者による受託者に対する意思表示によってすることができる。この場合において、第2号に掲げるときは、受託者は、委託者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。

 受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 委託者及び受益者

 信託の目的に反しないこと及び受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 受益者

委託者、受益者側からの変更も可としている。

 前三項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

親愛信託においては、別段の定めでもって信託変更のルールを決めておくべきであろう。

 委託者が現に存しない場合においては、第1項及び第3項第1号の規定は適用せず、第2項中「第1号に掲げるときは委託者に対し、第2号に掲げるときは委託者及び受益者に対し」とあるのは、「第2号に掲げるときは、受益者に対し」とする。

【特別の事情による信託の変更を命ずる裁判】重要度1               

第150条 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなるに至ったときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の変更を命ずることができる。

 前項の申立ては、当該申立てに係る変更後の信託行為の定めを明らかにしてしなければならない。

 裁判所は、第1項の申立てについての裁判をする場合には、受託者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして申立てを却下する裁判をするときは、この限りでない。

 第1項の申立てについての裁判には、理由の要旨を付さなければならない。

 第1項の申立てについての裁判に対しては、委託者、受託者又は受益者に限り、即時抗告をすることができる。

 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。  

訴訟前提の条文であるため、親愛信託とは馴染まないと思われる。

~信託法条文~ 第147条/第148条 よ・つ・ば的解説付

【遺言信託における委託者の相続人】 重要度4                  

第147条 第3条第2号に掲げる方法によって信託がされた場合には、委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

遺言信託の場合には、信託スタートの段階で委託者は死亡していることになるが、委託者の地位を相続人が承継しないとしており、この条文だけでは、委託者の地位が相続によって移転するのか否かについては明確になっていない。

【委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例】 重要度2   

第148条 第90条第1項各号に掲げる信託において、その信託の受益者が現に存せず、又は同条第2項の規定により受益者としての権利を有しないときは、委託者が第145条第2項各号に掲げる権利を有し、受託者が同条第4項各号に掲げる義務を負う。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

承継型信託において受益者が存在しない場合に委託者が受益者の持つべき権利を有するとしているが、現実には極めてレアなケースであると考えられる。

~信託法条文~ 第145条/第146条 よ・つ・ば的解説付

第五章 委託者

【委託者の権利等】重要度4                           

第145条 信託行為においては、委託者がこの法律の規定によるその権利の全部又は一部を有しない旨を定めることができる。

委託者の権利については、信託行為開始後は財産的部分がなくなり、監視的な部分のみになるので、権利自体を持たせるか否かを信託行為で決めることができるとされている。

 信託行為においては、委託者も次に掲げる権利の全部又は一部を有する旨を定めることができる。

本来は信託における財産権者である受益者の権利であるが、必要によっては一部を委託者にも持たせても良いとする規定である。

 第23条第5項又は第6項の規定による異議を主張する権利

 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合を含む。)の規定による取消権

 第31条第6項又は第7項の規定による取消権

 第32条第4項の規定による権利

 第38条第1項の規定による閲覧又は謄写の請求権

 第39条第1項の規定による開示の請求権

 第40条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

 第41条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

 第44条の規定による差止めの請求権

 第46条第1項の規定による検査役の選任の申立権

十一 第59条第5項の規定による差止めの請求権

十二 第60条第3項又は第5項の規定による差止めの請求権

十三 第226条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

十四 第228条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

十五 第254条第1項の規定による損失のてん補の請求権

 前項第1号、第7号から第9号まで又は第11号から第15号までに掲げる権利について同項の信託行為の定めがされた場合における第24条、第45条(第226条第6項、第228条第6項及び第254条第3項において準用する場合を含む。)又は第61条の規定の適用については、これらの規定中「受益者」とあるのは、「委託者又は受益者」とする。

 信託行為においては、受託者が次に掲げる義務を負う旨を定めることができる。

 この法律の規定により受託者が受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人。次号において同じ。)に対し通知すべき事項を委託者に対しても通知する義務

 この法律の規定により受託者が受益者に対し報告すべき事項を委託者に対しても報告する義務

 第77条第1項又は第184条第1項の規定により受託者がする計算の承認を委託者に対しても求める義務

 委託者が2人以上ある信託における第1項、第2項及び前項の規定の適用については、これらの規定中「委託者」とあるのは、「委託者の全部又は一部」とする。

親愛信託においては、委託者に権利を持たせる必要はないものと思われる。

【委託者の地位の移転】 重要度4                        

第146条 委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。

「委託者の地位」は財産権でもなく人格権でもない極めて微妙なもので、敢えて言うなら信託が無効となった際に所有権が戻ってくる対象でしかないが、本条では第三者への委託者の地位の移転の方法を示している。

 委託者が2人以上ある信託における前項の規定の適用については、同項中「受託者及び受益者」とあるのは、「他の委託者、受託者及び受益者」とする。

~信託法条文~ 第143条/第144条 よ・つ・ば的解説付

【受益者代理人による事務の処理の終了等】 重要度3               

第143条 受益者代理人による事務の処理は、信託の清算の結了のほか、次に掲げる事由により終了する。ただし、第1号に掲げる事由による場合にあっては、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

この条文の書き方から見ると、受益者代理人の職務は信託終了だけでは終わらず、清算決了まで継続するということになる。

 委託者及び受益者代理人に代理される受益者が受益者代理人による事務の処理を終了する旨の合意をしたこと。

 信託行為において定めた事由

 前項の規定により受益者代理人による事務の処理が終了した場合には、受益者代理人であった者は、遅滞なく、その代理した受益者に対しその事務の経過及び結果を報告しなければならない。

 委託者が現に存しない場合には、第1項第1号の規定は、適用しない。

受託者に関する規定が準用されている。

【信託管理人に関する規定の準用】 重要度3                   

第144条 第124条及び第127条第1項から第5項までの規定は、受益者代理人について準用する。

受託者に関する規定が準用されている。

~信託法条文~ 第141条/第142条 よ・つ・ば的解説付

【受益者代理人の任務の終了】 重要度3                     

第141条 第56条の規定は、受益者代理人の任務の終了について準用する。この場合において、同条第1項第5号中「次条」とあるのは「第141条第2項において準用する次条」と、同項第6号中「第58条」とあるのは「第141条第2項において準用する第58条」と読み替えるものとする。

 第57条の規定は受益者代理人の辞任について、第58条の規定は受益者代理人の解任について、それぞれ準用する。

受託者に関する規定が準用されている。

【新受益者代理人の選任等】 重要度3                      

第142条 第62条の規定は、前条第1項において準用する第56条第1項各号の規定により受益者代理人の任務が終了した場合における新たな受益者代理人(次項において「新受益者代理人」という。)の選任について準用する。この場合において、第62条第2項及び第4項中「利害関係人」とあるのは、「委託者又は受益者代理人に代理される受益者」と読み替えるものとする。

 新受益者代理人が就任した場合には、受益者代理人であった者は、遅滞なく、その代理する受益者に対しその事務の経過及び結果を報告し、新受益者代理人がその事務の処理を行うのに必要な事務の引継ぎをしなければならない。

受託者に関する規定が準用されている。

~信託法条文~ 第139条/第140条 よ・つ・ば的解説付

【受益者代理人の権限等】 重要度5                       

第139条 受益者代理人は、その代理する受益者のために当該受益者の権利(第42条の規定による責任の免除に係るものを除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受益者代理人は、「受託者の責任免除」という信託の根幹に関わる事項以外の、受益者が持つ全ての権利行使ができるので、もし制限の必要があるなら別段の定めを置いておく必要がある。

 受益者代理人がその代理する受益者のために裁判上又は裁判外の行為をするときは、その代理する受益者の範囲を示せば足りる。

受益者代理人は個別の代理権ではなく、包括的な権限を持つことを示している。

 1人の受益者につき2人以上の受益者代理人があるときは、これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受益者代理人が複数存在することも想定されている。

 受益者代理人があるときは、当該受益者代理人に代理される受益者は、第92条各号に掲げる権利及び信託行為において定めた権利を除き、その権利を行使することができない。

受益者代理人が存在するときには、受益者は一部の事項以外の権利行使が一切できなくなるので、もし受益者に権限を残すニーズがあるなら、別段の定めを置いておく必要がある。

【受益者代理人の義務】 重要度3                        

第140条 受益者代理人は、善良な管理者の注意をもって、前条第1項の権限を行使しなければならない。

 受益者代理人は、その代理する受益者のために、誠実かつ公平に前条第1項の権限を行使しなければならない。

  受益者代理人の義務についても、別段の定めで軽減することはできない。

~信託法条文~ 第137条/第138条 よ・つ・ば的解説付

【信託管理人に関する規定の準用】 重要度2                   

第137条 第124条及び第127条の規定は、信託監督人について準用する。この場合において、同条第6項中「第123条第4項」とあるのは、「第131条第4項」と読み替えるものとする。

受託者は信託監督人を兼務できないとしているが、当然の事であろう。

第三款 受益者代理人

【受益者代理人の選任】 重要度4                        

第138条 信託行為においては、その代理する受益者を定めて、受益者代理人となるべき者を指定する定めを設けることができる。

受益者代理人は原則として受益者ごとに決めることになっているが、複数の受益者に対して一人の受益者代理人が指定されることも妨げられてはいない。

 信託行為に受益者代理人となるべき者を指定する定めがあるときは、利害関係人は、受益者代理人となるべき者として指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、当該定めに停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件が成就し、又は当該始期が到来した後に限る。

 前項の規定による催告があった場合において、受益者代理人となるべき者として指定された者は、同項の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては、受託者)に対し確答をしないときは、就任の承諾をしなかったものとみなす。

信託監督人の規定が準用されている。

~信託法条文~ 第135条/第136条 よ・つ・ば的解説付

【新信託監督人の選任等】 重要度3                       

第135条 第62条の規定は、前条第1項において準用する第56条第1項各号の規定により信託監督人の任務が終了した場合における新たな信託監督人(次項において「新信託監督人」という。)の選任について準用する。

 新信託監督人が就任した場合には、信託監督人であった者は、遅滞なく、受益者に対しその事務の経過及び結果を報告し、新信託監督人がその事務の処理を行うのに必要な事務の引継ぎをしなければならない。

受託者に関する規定が準用されている。

【信託監督人による事務の処理の終了等】重要度3                 

第136条 信託監督人による事務の処理は、信託の清算の結了のほか、次に掲げる事由により終了する。ただし、第1号に掲げる事由による場合にあっては、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

委託者と受益者との合意があれば、信託監督人を実質的に解任することが可能とされているので、これを回避するためには別段の定めが必要となる。

 委託者及び受益者が信託監督人による事務の処理を終了する旨の合意をしたこと。

 信託行為において定めた事由

 前項の規定により信託監督人による事務の処理が終了した場合には、信託監督人であった者は、遅滞なく、受益者に対しその事務の経過及び結果を報告しなければならない。

 委託者が現に存しない場合には、第1項第1号の規定は、適用しない。

受託者に関する規定が準用されている。

~信託法条文~ 第133条/第134条 よ・つ・ば的解説付

【信託監督人の義務】 重要度3                         

第133条 信託監督人は、善良な管理者の注意をもって、前条第1項の権限を行使しなければならない。

 信託監督人は、受益者のために、誠実かつ公平に前条第1項の権限を行使しなければならない。

信託監督人の義務については別段の定めは許されていない。

【信託監督人の任務の終了】 重要度3                      
第134条 第56条の規定は、信託監督人の任務の終了について準用する。この場合において、同条第1項第5号中「次条」とあるのは「第134条第2項において準用する次条」と、同項第6号中「第58条」とあるのは「第134条第2項において準用する第58条」と読み替えるものとする。

 第57条の規定は信託監督人の辞任について、第58条の規定は信託監督人の解任について、それぞれ準用する。

受託者に関する規定が準用されている。

~信託法条文~ 第131条/第132条 よ・つ・ば的解説付

第二款 信託監督人

【信託監督人の選任】 重要度4                         

第131条 信託行為においては、受益者が現に存する場合に信託監督人となるべき者を指定する定めを設けることができる。

信託監督人は親愛信託においても活用される場面があり、必要な場合は信託行為で指定しておく。

 信託行為に信託監督人となるべき者を指定する定めがあるときは、利害関係人は、信託監督人となるべき者として指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、当該定めに停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件が成就し、又は当該始期が到来した後に限る。

信託監督人は受益者のように自動的に地位を持つのではなく、株式会社の役員のように就任承諾が必要という建付けになっている。

 前項の規定による催告があった場合において、信託監督人となるべき者として指定された者は、同項の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては、受託者)に対し確答をしないときは、就任の承諾をしなかったものとみなす。

 就任承諾は明示的にしなければならないとされている。

 受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情がある場合において、信託行為に信託監督人に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより信託監督人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、信託監督人を選任することができる。

 前項の規定による信託監督人の選任の裁判があったときは、当該信託監督人について信託行為に第1項の定めが設けられたものとみなす。

 第4項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。

 第4項の規定による信託監督人の選任の裁判に対しては、委託者、受託者若しくは受益者又は既に存する信託監督人に限り、即時抗告をすることができる。

 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。

裁判所に信託監督人を決めて貰うことも可能としている。

【信託監督人の権限】 重要度4                         

第132条 信託監督人は、受益者のために自己の名をもって第92条各号(第17号、第18号、第21号及び第23号を除く。)に掲げる権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

受益者が受託者に対して何らかの行為を求める権利を、信託監督人が受益者に代わって実行できるとしている。

しかし、親愛信託において、信託監督人の役割は別段の定めで決めることも有り得るので、実際には様々なパターンが考えられる。

 2人以上の信託監督人があるときは、これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

複数の信託監督人が存在するケースも想定されている。