【スタッフブログ】信託すると担保価値が下がる?!→下がりません

不動産を子供に信託したい、というご相談を受けることがよくあります。

持ち家でも賃貸物件でも銀行さんや保証会社さんのローンによる抵当権(根抵当権の場合もあります。まとめて「担保物権」と言います)がついていることが多いのですが、この場合は親愛信託をする前に担保を付けている金融機関さんに親愛信託することの了解を得る必要があります。

最近は、親愛信託(家族信託)が普及してきているので、行員さんも、よ・つ・ばグループやその他家族信託関係の団体が主催する講演会や信託関連セミナーに参加されたりして知識を蓄えていらっしゃる方も増えてきたように感じます。

ただ、少し支店(金融機関にも…)によって差がある感じもあります。お客様から「親愛信託をしたいのでそのための口座開設をしたいのだけど…」と相談を受けたり、また担保提供している不動産を家族に信託したいというご相談がある支店、そのようなお話がいままで全くない支店、対応にどうしても差が出てきてしまうのは無理もありません。

現行民法は施行100年以上(大規模な改正が間に挟まりましたが)。新信託法は10年少々。

民法は一般法で、信託法は特別法となると、どうしても民法より敷居が高いということになってしまいます。

だからか、信託(親愛信託・家族信託に限りません)について誤った概念、印象による根拠のない風説を見聞きすることもままあります。

少しずつでもそのような誤解を解いていきたいというのも私共の活動の一つです。

少し脱線しました。さて。本題に入ります。

担保提供している不動産を親愛信託する場合、金融機関さんより了解を得なければならない理由ですが、それは担保設定をする前提となる借入をするとき(ローン契約を締結するとき)、その契約書に「もしも借主であるあなたが担保として差し出す不動産を誰かに譲渡したり、処分したりした場合はペナルティがあるよ」という条項があるからです。

ペナルティというのは、一括返済とか違約金を払うとか金融機関さんによっても違いますが、銀行さんにとって借金のカタである不動産を勝手に処分されては、借金を払って貰う為の強制力(自分の不動産を担保権実行されて奪われるのが嫌だから、債務者は必死に弁済するだろうという強制力です。)が働かなくなってしまうため、銀行さんは非常に嫌がるのです。

もちろん、通常の処分を嫌がることは当然のことでしょうが、不思議なのは、信託による受託者への名義変更も嫌がる銀行さんが多いことです。

信託で名義変更するとは言っても、権利の中身は元の所有者が持ち続けるままなのです。

銀行さんが借金のカタとして置いておきたいのは、価値の高い「権利の中身」の方だと思いますので、信託をすることで何ら銀行さんが不利になることはありません。

普通の担保付不動産が信託不動産に変わったとしても担保権の実行も可能です。権利の中身は元の所有者のままですので、「借金を返さなきゃ!」という動機付けもそのまま続くこととなります。

ふとある金融機関の方が口にしたのは「信託すると登記が汚れる」。

その方がどのような価値観で「汚れる」とおっしゃったのか、理解できませんが、もしかしたら差し押さえや仮登記が入っている登記簿のことが念頭にあったのでしょうか。

信託の登記というのは、所有権が受託者に帰属しつつもその権利は受益者に属していることを示すにはとてもわかりやすい記載方法だと考えますが、そのように所有権を、帰属先(受託者)と権利の持ち主(受益者)にわけることがどうして「汚れる」と感じるのか。

これは単なる信託の認識不足?(勉強不足?)なだけではないのかと思ってしまいました。

銀行の行員さんはプロの法律家ではないので、財産法をあまねく知る必要もないのかもしれません。

とは言いながらも、取引先であるお客様に関心が広がっている分野についてはもう少し知識を広げていただければ、とてもよいサービス向上になるのに…と残念に思います。

信託をすることで、差押が入るわけでもありませんし、かつて所有者だった人の意思能力や行為能力の低下を補うべく管理権限を持った受託者がその不動産を管理するということで、担保価値は逆に上がるのではないでしょうか。

一般社団法人よ・つ・ば親愛信託ちば AM

~信託法条文~ 第3条/第4条 よ・つ・ば的解説付

現在の信託法は、昔からの商事信託(金融行為)を前提とした条文と、親愛信託などの個人間での新たな信託のための条文が入り混じっており、両者の根本的な発想が異なるため、非常に分かりづらい構成になっています。

親愛信託を前提とする場合の条文の重要度を5段階に区分けしたいと思います。

もちろん、重要度の高い条文であっても親愛信託の実体に合わせるための今後改訂は必要だと思われますし、重要度の低い条文であっても稀には親愛信託に使われる条文もあるので、注意が必要ですが、重要度ゼロの条文(商事信託以外では全く必要ない条文など)については割愛しても構わないと考えます。

【重要度5】 親愛信託でも常に認識しておく必要がある、特に重要な条文。

【重要度4】 親愛信託では常に使わる訳ではないが、基本項目として重要な条文

【重要度3】 親愛信託ではあまり使われないが、一応は必要と思われる条文

【重要度2】 親愛信託ではほぼ使われることはない条文

【重要度1】 親愛信託とは無関係な条文

(信託の方法)重要度5

第三条  信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

一  特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法

これが一般的な契約で行う信託の方法である。

性状変換説においては、本項の前半で言う「譲渡」や「処分」は、民法上の概念とは異なり、所有権の移転ではなく、管理処分権限等を受託者に託する行為を指し、これも民法上の「契約」の概念とは全く異なるものである。

また本項の後半で言う「処分」は、信託の一部を終了させることや、信託受益権を他者に渡すことではなく、例えば不動産である信託財産を売却して金銭である信託財産に交換するような「両替」的な行為を指しており、用語の使い方に混乱が生じている。

 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法

これが遺言信託と呼ばれる信託の方法である。

参考までに、信託銀行等が「遺言信託」という商標で販売しているものは信託ではなく、単なる遺言書預かり業務であり、混乱を生じさせるものである。

「遺言」という文言ではあるが、ここで言う遺言とは、民法上の概念ではなく、あくまでも遺言という形式を借りた信託行為開始のための様式を示しているものであると考えられる。

 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

これが新信託法で初めて認められた「自己信託」の方法である。

自己信託は「財産権の移転」を伴わないので、信託法改正前には認められておらず、現在でも自己信託を認めないと公言する学者も存在するようであるが、これが最も民法の概念とは異なる信託の特徴を表し、性状変換説の正当性を証明している仕組みと言える。

また、公正証書を使用しない場合でも、受益者が複数存在しているケースでは、委託者とは異なる受益者に通知を発送することによって自己信託が成立すると規定している。

(信託の効力の発生) 重要度5

第四条  前条第一号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。

旧信託法では「財産の移転」が信託の成立要件であり、信託契約は「要物契約」とされていたが、現行法ではその文言がなくなり、信託は委託者と受託者との合意のみで成立する「諾成契約」となったため、契約成立日が効力発生日となる。

意思表示のみで成立するので、解釈的には契約書自体も不要ということになる。

そして、契約当事者の中に、実際の権利保有者となる受益者が入っていないということも、民法上の契約とは一線を画している部分である。

 前条第二号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。

遺言信託の場合には遺言の効力発生、すなわち委託者の死亡まで効力が発生しないので、信託財産も委託者死亡時点での所有財産に限定されることになり、例えば遺言信託の後も生前の財産処分は自由であり、かつ後から行われた遺言との優先劣後関係も不明となるので、法的には不安定な部分があり、実務的にはあまり勧められない。

ただ、既に存在する信託に、遺言でもって財産を追加する「遺言追加信託(注ぎ込み型信託ともいう)」は有効な手段として活用できる。

 前条第三号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。

 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成

自己信託の効力発生日は公正証書の作成日となるところが、私文書または口頭での意思の合致による契約の日が効力発生日となる信託契約との相違である。

 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が二人以上ある場合にあっては、その一人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知

委託者とは異なる受益者への通知で自己信託を成立させる場合の効力発生日は、この条項だけでは明確ではないが、一般的な解釈としては「確定日付の日」ではなく「通知の到達日」であると考えられる。

 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

例えば「〇〇の事態が発生した時から信託契約の効力が発生する」という規定は有効であるが、例えば「委託者が認知症になったら」というような不確定かつ不明確な条件設定をしてはならない。

成年後見人をしていて思うこと

 私は社会貢献の一環として成年後見人をさせて頂いたいます。
 成年後見人をしていると「民事信託組んでおけば解決できるのに」というシュチュエーションに身をもって遭遇します。
 
 一番困るのは認知症が進行すると、あらゆる財産上の手続ができなくなる事です。 
 身近なところで言えばお金をおろせなくなることでしょう。
 「家族さえも」おろせなくなってしまいます。
 
 そうのなると裁判所に後見人開始を申立てという面倒な手続き経て、やっとお金をおろせる事ができるという流れになります。

 もっと早く被後見人の方にお会いできていれば「信託契約のご提案をできたの」にと思うと同時に、そうならない為にも元気なうちに信頼できる人に財産を託す「信託契約」を組んでいく事が解決策としては肝要かと思う次第です。

 よつば民事信託とやま
 代表理事 山本 和博

【スタッフブログ】空き家を相続放棄できるか?

空き家を相続放棄できるか?

 近年、「空き家」が社会問題となっています。自分の親が長い間空き家となっている自宅だけを残して亡くなった場合にこれを相続放棄できるかという相談をときどき受けます。相続放棄自体はできるのですが、少し難しい問題もありますのでそのあたりをご紹介したいと思います。

 まず、相続放棄ですが、基本的人亡くなったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述書を提出する必要があります。相続放棄は亡くなった人の財産のすべてを放棄する手続きですので、現預金だけを受け取って、借金や不動産だけを放棄するなどということは当然できません。

 亡くなった人の財産が空き家だけであってもこの相続放棄の手続きは、問題なくできます。これでこの空き家に関する責任から逃れることができるわけです。ところが、民法に以下のような規定があります。

 民法第940条第1項「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」

 つまり、自身が相続放棄をしても次の管理者に引き継ぐまでは、管理責任が発生するということです。ただ、この管理責任がどこまでの管理を要求しているのか判然としません。例えば、相続放棄をした空き家が倒壊しそうになっている場合、これを修繕することまで要求するのは、難しいのではないかとも思えます。

 では、相続放棄をした結果、相続人がいなくなってしまった場合はどうすればよいのか。家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任申立てをして、相続財産管理人に引き渡せばよいのです。そうすれば、完全にこの空き家に関する責任から逃れることができます。

 ただし、ここでの問題点はその費用負担です。相続財産管理人を申し立てるにあたって、裁判所に予納金を収める必要があります。その額は事案によって裁判所が決めますが、私が経験した案件では50万円程度、場合によってはもっと高くなることもあります。この費用負担ができればよいのですが、それができずに相続放棄だけをして、管理者がいない空き家となって放置されている不動産も存在するのです。

 このような事態にさせないために、不動産を所有している人が予防のための手続きをしておくことをお勧めします。遺言や信託契約など、所有者が元気であれば選択肢はたくさんあります。ぜひお早めに検討してみてはいかがでしょうか。

協同組合親愛トラスト 理事 田代

~相談してはいけない専門家の見分け方~ 第3回目

★第3回目

Q3:親愛信託とはどのようなものなのでしょうか?

:家族信託のことですね。これは主な使い方としては、認知症対策です。成年後見制度の代替とし使うものです。本人の死亡で信託を終了させることが一般的です。

:民事信託のことですね。信託とは本来は資産運用を目的として信託銀行や信託会社が使う制度なのですが、小規模で銀行などが取り扱ってくれない財産などを便宜的に家族などが受託者となって行うのが民事信託です。しかし、やはり受託者が一般人というのは危険ですから、小規模な信託も取り扱ってくれる信託会社が必要ですね。

:一応、今の信託法では認められているようですが、まだ裁判例がないし、遺言や成年後見制度を使った方が無難なので、使わない方が安全だと思います。

:親愛信託は家族に限定せず、本当に親しく愛情のある人を信じて財産を託する仕組みで、生前の財産管理対策のみならず、将来にわたっての財産承継対策や事業承継対策その他様々な活用法があり、英米では当たり前に使われている仕組みですから、我が国でも大いに普及させるべきだと思います。

Q4:信託をすれば成年後見制度を使う必要はなくなりますか?

:我が国の成年後見制度は使いづらく自分の財産が使えなくなるという間違っている制度なので、それを回避するために使うのが家族信託です。

:成年後見制度は家庭裁判所の監督下にある専門家が後見人として付く、極めて安心できる制度ですから、誰も監督しない不安定な制度である民事信託とは、全く別のものとして使うべきです。

:信託は今までも使われていませんでしたし、成年後見制度も預金が下せないとか何か不便があった時に使ったら良いのではないでしょうか?

:親愛信託と成年後見制度は根本的に異なる制度ですから、信託財産関係以外で必要になるケースはあると思いますが、現在の法定後見制度には問題があるので、もし使うなら任意後見契約を検討された方が良いと思います。後見制度はその人自身に対する制度で、信託は財産に対して使う制度ですので、使い方が異なりますので、ケースに応じて使うことが大切です。

生命保険と遺産相続との関係についての再検討

星野豊氏の論文をもとによ・つ・ばグループの理事および会員で、ZOOMによる勉強会を開催しました。

グループの会員限定のセミナーですが、信託を実務で提案・実行する際に必要になってくるのが生命保険の知識です。

生命保険は受取人固有の財産という最高裁判例が出ていますが、

相続財産としてはどのような考え方をすればよいのか?

信託財産との考え方はどうなのか?

などを論文の中にある判例8つを検討し、生命保険の基本をあらためて見直すことをしました。

「相続人」と「該当者が相続人にあたる人になる」という場合の違い、相続財産ではないけれどみなし相続財産となる場合など、何が根拠なのかがきちんとわかっていないと混乱してしまうケースがたくさんあります。

信託と生命保険のしくみがきちんと理解できると活用できるケースが広がります。今日の論文の中には登場しませんでしたが、指定代理請求人の権限は何なのかという質問や海外の相続などについてももっと情報が欲しいなどという意見も出たので、今後もテーマを決めて、会員に向けての勉強会を開催していく予定です。

~相談してはいけない専門家の見分け方~ 第2回目

★第2回目
:信託濫用派:信託を商売の道具と考え、将来に責任は持たずあまり勉強はせずに、単純な実務を多数やっている。

:信託規制派:国民に信託を自由に使わせず、国が規制をかけるべきと考え。

:信託懐疑派:新しい制度である信託に違和感があり、判例が出るまで待とうという考え。

:信託推進派:国民の幸せのために、さらなる信託の活用法を研究開発しようとしている。

Q1:信託とはどういった仕組みなのですか?という質問に対してのそれぞれの答え

:委託者が受託者に財産を「預けて」、契約書に書けば委託者の代わりに受託者が何でもできて、その利益は受益者が受け取るという仕組みです。

:財産の所有権が委託者から受託者に移転し、受益者が受託者に対する債権者として権利を行使するという仕組みです。

:複雑でよく分からないし、遺言でも大丈夫なので、一般の人は使わない方が安全だと思います。

:委託者の財産を「所有権」から「信託受益権」というものに性状変換する仕組みで、名義だけは受託者に変わりますが、権利は「受益者」という名になった委託者がそのまま持ち続けます。自分に合った使い方が出来て、将来のリスクを減らすことができます。

Q2:自己信託という仕組みもあるそうですが?という質問に対してのそれぞれの答え

:あるみたいですけど、認知症対策にはならないので使えないでしょう。

   特別な人が使うものなので、普通の人には必要ありません。

:自己信託は所有権の移転がないので、本来の信託とは言えず、あくまでも不動産証券化などの特殊な事例でのみ使われる例外的な存在です。実際にはほぼ使われてないはずです。

:それは信託法の条文にはありますが、使う人も少ないし、事例も少ないので使わない方がいいと思います。

:自己信託は名義が変わらないだけで、他の信託と同じく、様々な活用法が考えられます。ただ名義が変わらないので、認知症対策にはなりませんが、事業を展開する場合や財産の承継の方法としては他のしくみでは出来ないことを実現することができます。ただし、「1年ルール」というのがあるので、それには留意しなくてはなりません。

~信託法条文~ 第1条/第2条 よ・つ・ば的解説付

2007年(平成19年)に施行となった信託法の全面改正から12年以上を経過しましたが、いまだに基本的な解釈の部分から諸説あり、定まっていない部分が少なくありません。

そこで、改めて信託法の条文ごとに、諸説が存在することを前提としながらも、よ・つ・ばグループが提唱する「親愛信託」の基本的解釈である「性状変換説」の立場で分析して、ご紹介していきます。

なお、明らかに商事信託のみを前提として作られている条文については簡単な説明にとどめ、実際に親愛信託に関係する条文に説明の中心を置きたいと思っています。

まずは第1条と第2条です。

(趣旨)

第一条 信託の要件、効力等については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

この条文は、信託法と他の法律との関係を示しているが、民法など他の一般法において「信託」を規定した条文は存在しない(借地借家法や労働基準法等は、民法に存在する同様の規定を排除して優先適用させるためにある)ため、信託法は信託に関する独立した一般法であると解釈できる。「他の法令に定めるもののほか」という文言は、この法律が一般法であり、この法律に対しての特別法が存在するときには特別法の規定が優先するという意味であると考えられる。

参考

会社法 第1条(趣旨) 会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

保険法 第1条(趣旨) 保険に係る契約の成立、効力、履行及び終了については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

すなわち、信託法は、同時期に作られた会社法や保険法と非常に類似しており、このことが民法における相続の規定が信託法においては適用されないとする一つの根拠となり得るものと考えられる。

(定義)

第二条  この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

この条文が信託という行為の定義である。曖昧な部分が多く、解釈が分かれているが、旧法時代の「要物契約」ではなく、諾成契約的なものであると認められたのは間違いない。

旧法では「本法ニ於テ信託ト称スルハ財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムルヲ謂フ」となっており、委託者から受託者への財産の移転が成立要件となっていたため、これが今の根強く残る「物権変動説」の根拠となっているが、新法においては要件が変更になったため、「性状変換説」の説得力が増大したものと言える。

 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。

 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約

 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言

 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示

この条文は、信託を成立させるための「契約」「遺言」「信託宣言」を一つにまとめて「信託行為」と呼んでおり、明らかに民法上の契約及び単独行為の考え方とは異なる概念を作り出している。

 この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。

 「受託者に属する財産」という文言から、物権変動説を採る者は受託者が財産の所有者であると主張するが、「属する」という文言は必ずしも「所有する」という概念とは一致せず、性状変換説においては「管理に属する」という意味で考える。

 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。

「信託をする者」という記載から、最初に信託行為を行う(民法上の財産を信託財産に変換する)ことができるのは委託者のみであると考えられる。その意味から、委託者とは「元の所有者」を指す言葉であると解釈できる。そのことから、追加信託という行為は委託者にのみ許される法律行為であると言える。

 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。

受託者とは、あくまでも信託行為に定められた範囲において必要な行為のみしか行うことができず、かつ信託の目的達成に必要な範囲での義務のみしか負わないと考えられ、これが民法上の代理や後見との明らかな相違点である。 

 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。

 次項で受益権について定義されているが、「受益者」は民法上の「債権者」と同一の概念ではない。

 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。

受益権が民法上の「債権」とは異なり、信託法独自の概念であることを示している。なお、ここで言う受益債権に対する債務者は、実際には「信託財産」であって、受託者個人ではないが、日本の法律上では「財産」自体を債務者とするルールが存在しないので、信託財産を管理する受託者を「名義上の債務者」としていると考えられる。

 この法律において「固有財産」とは、受託者に属する財産であって、信託財産に属する財産でない一切の財産をいう。

 受託者の固有財産は信託とは関係なく存在する「別の財産」であることを示しており、逆に「信託財産に属する財産」は受託者の財産ではないと解釈できる。

 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。

 第7項で解説した通り、信託における債務者は実際には「信託財産」であるが、第12項には限定責任信託の規定があり、立法者にも迷いや揺れがあったものと想像される。

10  この法律において「信託の併合」とは、受託者を同一とする二以上の信託の信託財産の全部を一の新たな信託の信託財産とすることをいう。

信託の併合の概念は、信託財産を一つの「法人」であるかのように見ているものであり、法人の合併と同様に複数の信託を併合できると考えている。

11  この法律において「吸収信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい、「新規信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいい、「信託の分割」とは、吸収信託分割又は新規信託分割をいう。

前項で規定されている信託併合の逆パターンであり、やはり信託財産を一つの法人として考えていることが明確に分かる条項。

12  この法律において「限定責任信託」とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。

第9項で示した通り、これが本来の「信託財産責任負担債務」の在り方であるが、日本の法律上も金融制度上も、財産のみを債務者とする制度が存在しないので、ここでも迷いや揺れが生じているよう。

【スタッフブログ】コロナウィルスによる家族信託業務への影響

コロナウィルスによる家族信託業務への影響

 

皆様こんにちは、今回は香川県で司法書士・行政書士をしております私門馬が担当させて頂きます。

さて今月に入り香川県におきましても、実際に家族信託を含む司法書士業務、行政書士業務への影響が残念ながらでてまいりました。

一番困っておりますのが、殆どの介護施設におきまして、入所者の方との面会ができなくなってしまった事です。

例えば、不動産売買におきまして売主様が一定の年齢以上でらっしゃる場合、司法書士において判断能力等の確認の為、取引の前に売主様が入所されてらっしゃる施設にお伺いをし直接面会させて頂く事が多くありますが、香川県においてもご家族以外の方の施設での面会が現在ほとんど不可能となっております。

売主ご本人様、ご家族の方から施設の方にご説明頂きなんとか面会させて頂くケースや施設に外出許可を貰って売主様のご自宅でお会いするケースもありますが、その場合、万が一コロナウィルスに売主様や他の施設入所者様が感染されてしまうリスクもありますので難しい判断を毎回せまられます。

かといってコロナウィルスの流行がいつ終わるか分からない状態ですので、仮に暫く様子を見てた場合、その間に売主様が判断能力を失われてしまったり、不動産の買主様が購入を辞退される可能性もあります。

同じことが、家族信託業務にも言えます。実際に委託者及び受託者の候補者と打ち合わせを重ね、これから契約書作成という段階で数件とまってしまいました。

また受託者候補者(もしくは予備の受託者)の方が、県外にお住まいというケースが結構ありまして、スキーム組成や契約書作成前にかならずお会いして意見をお聞きしてから進めるようにしておりますが、現在県をまたいでの移動に抵抗をしめされる方が多い為この段階でとまってしまってるケースもあります。

今後は、パソコンやタブレット端末を用いた非対面での相談や面談が増えてくると思われますが、継続相談や受任後の事務手続きの確認は別として、なかなか一度も直接お会いしないで業務を進めていくのは、特に家族信託のような業務に関しましては難しい気が致します。

相談者や依頼者はご高齢の方が多く、そもそもパソコンやタブレット端末、通信用のアプリを使いこなせるかという問題もありますが、やはり直接お会いしないと人となりが分からず、画面を通してだけでは信用して業務をまかせられないとお考えの方がかなりいらっしゃると思います。

家族信託の場合、契約書の文言が一般の方からするとどんなに工夫をこらししても理解が難しい場合が多く、通常委託者、受託者になんどもご説明を繰り返して理解して頂くケースが多いです。非対面での場合どうしても直接お会いする場合より説明が難しいと感じてます。

コロナウィルスの流行がいつ終わるか予測できない中、実際に家族信託を含む業務の依頼にいかにスピーディにリスクなく答えていくか、専門家の腕の見せ所です。

香川 門馬良典

【スタッフブログ】映画に観る認知症

1.三本の映画

遺言・相続、後見業務、信託・・を語る際、必ずと言っていいほど、「高齢化・認知症」がキーワードとして使われます。セミナー等によっては、不安商法的なニュアンスが漂う感も、あります。私は一映画ファンですが、映画に認知症が出てきた例では、これまで三本観ています。

2.最も新しい作品は、“長いお別れ”です。

作家の中島京子さんがご自身のお父様の10年余の介護の日々を綴った原作の、映画化です。怪優・山崎務の名演技でした。実は私は先ず原作を読み、その後たまたまですが、文芸春秋本社での中島さんと筑波大学の認知症専門医師とのトークショーを聴かせて頂き、最後に映画も観ることが出来ました。長女・竹内結子、次女・蒼井優と、私の贔屓の女優陣で、観劇は至福のひとときでした。

トークショーでは、認知症計測のデファクトスタンダードである長谷川式スケールでの、お父様の進行状況を詳しくご説明されました。“長いお別れ”は、英語の認知症“long goodbye”の直訳であると、初めて伺いました。これは映画の中でも、米国の高校に学ぶ孫が校長先生から教えて貰う場面が出てきます。病気がどんどん進んで行く様は、私も個人的に、身内にも知人のお母様にも認知症を患って亡くなった方がおり、身につまされる思いでした。

3.もう一つは、原田芳雄の遺作となった“大鹿村騒動記”です。

300年続く郷土歌舞伎の上演を描く、凄い豪華キャスト(佐藤浩市、松たか子、三國連太郎他沢山)のエンターテインメント作品でした。友人と駆け落ちした主人公の妻(大楠道代が、はまり役でしたね。)が重い認知症になって、逃げた友人(岸部一徳)に連れられて村に帰ってきます。「女房を治してから返してくれよー!」と、まだら認知症の妻を抱える羽目になった夫が叫びます。晩年の原田芳雄のやや枯れた感のある、しかし重厚な演技で、泣き笑いしながら観ましたね。

映画完成披露のご挨拶では、美しいご長女の押す車いすに乗った原田芳雄が舞台に登ります。親子の感動的な場面で、自分も娘を持つ親として、眼に残りました。

4.最後が、若年性認知症を扱った“明日の記憶”です。

渡辺謙と樋口可南子夫妻、(福山雅治と結婚した)吹石一恵が一人娘役でした。これも、好きな女優陣で良かったです。大手広告代理店の現役バリバリの営業部長が、ある日突然記憶喪失的な状態となり、あっと言う間に病状悪化して行きます。若い専門医の問診に対し、「お前なんかに何が分かるんだ!」と怒鳴る夫。急きょ道案内に助けに来てくれる部下、片や役員に上司の認知症の服薬をチクる部下に、私自身も当時は会社員でしたから、サラリーマン社会のリアリティを覚えたのを思い出します。専業主婦から、友人のお店を任せられるところまで成長した妻でしたが、夫の為に仕事を諦め、介護のために施設の近くに引っ越して行きます。「こんな奥様を得て、羨ましいなー!」という、いささかやっかみ的な思いもありました。

5.大昔まだ学生の頃、有吉佐和子の“恍惚の人”という、初めて認知症(当時は、この言葉がまだ無かったように思います。)をテーマにした、時代に先駆けた小説がありました。ノーベル平和賞の佐藤栄作総理が読んだ感想を述べて、話題になりました。私は未だ読まず仕舞いですが、ご縁あってよ・つ・ばに関わらせていただき、何と士業として認知症と向き合う役目となり、正直言って驚いております。

親愛信託東京・理事 大関 一