~信託法条文~ 第3条/第4条 よ・つ・ば的解説付

現在の信託法は、昔からの商事信託(金融行為)を前提とした条文と、親愛信託などの個人間での新たな信託のための条文が入り混じっており、両者の根本的な発想が異なるため、非常に分かりづらい構成になっています。

親愛信託を前提とする場合の条文の重要度を5段階に区分けしたいと思います。

もちろん、重要度の高い条文であっても親愛信託の実体に合わせるための今後改訂は必要だと思われますし、重要度の低い条文であっても稀には親愛信託に使われる条文もあるので、注意が必要ですが、重要度ゼロの条文(商事信託以外では全く必要ない条文など)については割愛しても構わないと考えます。

【重要度5】 親愛信託でも常に認識しておく必要がある、特に重要な条文。

【重要度4】 親愛信託では常に使わる訳ではないが、基本項目として重要な条文

【重要度3】 親愛信託ではあまり使われないが、一応は必要と思われる条文

【重要度2】 親愛信託ではほぼ使われることはない条文

【重要度1】 親愛信託とは無関係な条文

(信託の方法)重要度5

第三条  信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

一  特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法

これが一般的な契約で行う信託の方法である。

性状変換説においては、本項の前半で言う「譲渡」や「処分」は、民法上の概念とは異なり、所有権の移転ではなく、管理処分権限等を受託者に託する行為を指し、これも民法上の「契約」の概念とは全く異なるものである。

また本項の後半で言う「処分」は、信託の一部を終了させることや、信託受益権を他者に渡すことではなく、例えば不動産である信託財産を売却して金銭である信託財産に交換するような「両替」的な行為を指しており、用語の使い方に混乱が生じている。

 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法

これが遺言信託と呼ばれる信託の方法である。

参考までに、信託銀行等が「遺言信託」という商標で販売しているものは信託ではなく、単なる遺言書預かり業務であり、混乱を生じさせるものである。

「遺言」という文言ではあるが、ここで言う遺言とは、民法上の概念ではなく、あくまでも遺言という形式を借りた信託行為開始のための様式を示しているものであると考えられる。

 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

これが新信託法で初めて認められた「自己信託」の方法である。

自己信託は「財産権の移転」を伴わないので、信託法改正前には認められておらず、現在でも自己信託を認めないと公言する学者も存在するようであるが、これが最も民法の概念とは異なる信託の特徴を表し、性状変換説の正当性を証明している仕組みと言える。

また、公正証書を使用しない場合でも、受益者が複数存在しているケースでは、委託者とは異なる受益者に通知を発送することによって自己信託が成立すると規定している。

(信託の効力の発生) 重要度5

第四条  前条第一号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。

旧信託法では「財産の移転」が信託の成立要件であり、信託契約は「要物契約」とされていたが、現行法ではその文言がなくなり、信託は委託者と受託者との合意のみで成立する「諾成契約」となったため、契約成立日が効力発生日となる。

意思表示のみで成立するので、解釈的には契約書自体も不要ということになる。

そして、契約当事者の中に、実際の権利保有者となる受益者が入っていないということも、民法上の契約とは一線を画している部分である。

 前条第二号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。

遺言信託の場合には遺言の効力発生、すなわち委託者の死亡まで効力が発生しないので、信託財産も委託者死亡時点での所有財産に限定されることになり、例えば遺言信託の後も生前の財産処分は自由であり、かつ後から行われた遺言との優先劣後関係も不明となるので、法的には不安定な部分があり、実務的にはあまり勧められない。

ただ、既に存在する信託に、遺言でもって財産を追加する「遺言追加信託(注ぎ込み型信託ともいう)」は有効な手段として活用できる。

 前条第三号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。

 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成

自己信託の効力発生日は公正証書の作成日となるところが、私文書または口頭での意思の合致による契約の日が効力発生日となる信託契約との相違である。

 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が二人以上ある場合にあっては、その一人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知

委託者とは異なる受益者への通知で自己信託を成立させる場合の効力発生日は、この条項だけでは明確ではないが、一般的な解釈としては「確定日付の日」ではなく「通知の到達日」であると考えられる。

 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

例えば「〇〇の事態が発生した時から信託契約の効力が発生する」という規定は有効であるが、例えば「委託者が認知症になったら」というような不確定かつ不明確な条件設定をしてはならない。

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