親とのコミュニケーション

 父親に遺言書を書いてもらおうと思っているのですが、

話しを聞いてもらえますか。

息子さんから相談を受け、私は話しを伺いに行きました。

父親は腕一本で事業を成功させて財を築いた昭和の男性で、

ザ・ガンコな方でした。息子さんが父親の横やりを上手く

受け流して、現況と父親の希望を話してくれました。お話

しを伺ったところ、これは信託を活用した方が良いと思い

息子さんには説明させて頂きましたが、それを父親が理解

してくれるよう話すのは無理です、と言われてしまいまし

た。

 この親子の姿を見て、自分と母の事を顧みました。

私の父は20年ほど前に亡くなりましたが、祖父の立ち上げ

た事業を拡大し、母はそれを支え、現在は私の兄が継いでい

ます。母は父から相続した自己名義の不動産を事業に賃貸し、

担保提供もしています。80歳を過ぎてはいますが、頭も体も

しっかりしています。今のうちに信託をしておいたほうが良

い、と思いつつ、もう2年ほど過ぎてしまっています。自分

の親にさえ、どう話したら良いのか悩む事を、何度か会った

だけのお客様にご理解頂くのはとても難しい事です。だから

こそ納得して頂けるよう自身が信託の良さを理解し、お客様

との信頼関係を築いたうえで、親愛信託という、この優れた

手続きを是非活用して頂けるよう、努めていこうと思います。

一般社団法人よ・つ・ば親愛信託こうち 理事 北浜直樹

自分の亡き後に大切なペットを託す

昨年夏に友人の飼っていた猫(マル)が天国へ召されました。子どもがいない友人夫婦にとっては家族同様であったマルが居なくなってお二人ともとても寂しがっていたのですが、特に奥様はいつも一緒にいたこともあって気持ちの落ち込みも激しかったようです。

友人はそんな奥様を見てとても心配していました。

 年末に買い物に出かけた際にたまたま開催されていた保護猫の譲渡会でマルとよく似た猫に出会ったのです。奥様はその猫に惹かれてしまい、その猫を引き取りたいと申し出ました。しかし、友人夫婦は還暦世代だったこともあり、夫婦に何かあったときに面倒を見てくれる後見人を付けるようにという条件がありました。

後見人を頼める子どもも友人夫婦にはいません。姪や甥に頼むとしても今後いろいろとペットにはお金がかかることにもなるし、費用を持ってほしいとは言えるわけもありません。

 友人は新しく家族となる猫に財産を残したいと考えたのですが、そもそもできるのか。

姪や甥に渡せばいいのだろうけど、やっぱり心配でどうしたらよいかと相談に来ました。

1)ペットに財産を遺せるのか?

現在の日本の法律では動物(ペット)は家財等と同じに「動産」として扱われますので、いくら遺言に書いてもペットに財産を遺すことはできません。

2)ペットの飼育を委託する人に財産を遺す

①ペットの飼育を委託する人に「負担付死因贈与」や「負担付遺贈」で財産を遺すことは可能です。

 *「負担付死因贈与」

ペットの飼育をしてもらうことを条件に、贈与者の死亡後に財産を贈与すること。

  「負担付遺贈」

   ペットの飼育をしてもらう義務を負担させた遺贈

どちらとも遺産をもらう代わりにペットの面倒を見てもらうというものですが、不安要素もあり遺産をもらった人が本当に面倒を見てくれるかどうかは分からないという問題点があります。

②ペット信託®

  ペット信託®とは、ペットの飼い主にもしもの事態があった時に備えることができるペットのための信託です。

信託とは自分の財産の一部又は全部を信頼できる人に託して、自分が決めた目的に沿って管理・運用してもらう制度です。この仕組みをペットのために活用して飼い主の入院・施設への入居、および飼い主の死亡後に託した財産でそのペットを飼育してもらう方法です。

姪や甥など親族に飼育を委託できる場合でももちろんですが、ペット信託で飼育を委託できる団体もあるようです。

友人夫婦は姪と相談してペット信託契約を結ぶこととなり、晴れて新しい家族を迎えることができました。

今回のように新たにペットを迎える時ばかりではなく、飼い主が高齢化していく段階で、身近に頼る方がいない飼い主が、自分自身にもしもの事態が起きた際に備える役割がペット信託にはあります。

いつ何が起こるか予想はできないので、大切な家族(ペット)を守るためにも今後の対策は検討したいですね。

一般社団法人親愛信託東京 代表理事 北浦千加

信託で家族の伝統を次世代に遺しませんか?
―沖縄のトートーメー問題を事例に―

一般社団法人よつば親愛信託おきなわより喜舎場です。

沖縄の祭祀行事は、祖霊信仰をもとに行われる家庭が多いです。

沖縄では、先祖代々を祀る位牌のことを「トートーメー」と呼びます。

相続が発生するとき、この「トートーメー」の継承が相続トラブルに発展するケースがあります。

・沖縄に根強く残る家督相続

旧民法では、家督相続という制度がありました。家督相続とは、家長(戸主)が持っている全財産を嫡出子の長男に単独相続させることで、家の財産を守り、一族の面倒を見るというものでした。日本国憲法の施行とその後の民法改正に伴い、家督相続制度は廃止されました。

しかし、沖縄では家督相続が廃止された現代においても、祭祀主宰者を長男とする慣習は根強く残っています。その他にも祭祀継承にあたってタブーとされる慣習もあり、女性の継承や次男以降の継承を避ける傾向にあります。

・トートーメー継承による相続トラブル

祭祀財産(お墓、祭具、系譜など)は相続財産ではありませんが、現代でも根強く残る慣習により相続トラブルになることが多くあります。

・長男が多くの財産を相続することで、他の兄弟姉妹が財産を相続できない、または相続できる財産が少ない。

・相続財産が少ないのに長男が祭祀継承しなければならず、他の兄弟姉妹に比べて経済的負担を強いられる。

など、相続財産とトートーメーを一体として考えることで、相続人間のトラブルの原因になりやすいのです。

・現代社会と慣習のギャップ

さらに現代においては、少子高齢化、核家族化なども進み、単身世帯や夫婦のみの世帯なども増えています。また、故郷を離れて他府県や国外に移り住んだりなど個々の生活状況はとても多様になりました。

様々な状況により、長男を必ず祭祀主宰者とすることはかなり難しくなってきていると言えるでしょう。

これまでの祭祀継承は、「長男が一族の財産・祭祀のすべてを守ること」が求められてきました。

これからは、「遺す人がだれに受け継いでほしいか」「遺された人がどのように守っていくか」をご家族が生前のうちに話し合い、理想の継承方法を考えていくことをおすすめします。

これらの問題は、信託で解決できます!

信託であれば、理想の継承方法をオーダーメイドで形にすることができます。

・長男ではなく、次男に管理してもらいたい。

・遺した財産を一族の祭事管理のために使ってもらいたい。

・次世代だけではなく、三世代目まで決めておきたい。

など、ご自身の財産や連綿と受け継がれる一族の伝統を次世代に託すことができます。

大切なご家族のために、親愛信託の活用をぜひご検討ください。

ご相談は、お近くの社団までお気軽にお問い合わせください。

一般社団法人よつば親愛信託おきなわ 理事 喜舎場 響

「確認」「診断」「検討」…面倒と思わずに!!!

「ウチは関係ない」

「ウチはまだ早い」

「ウチは財産が少ないから問題ない」

本当にそうでしょうか?

   ・・・・・・相続・資産承継の話です。

相続・資産承継については、まず「確認」「検討」「診断」をしてみることが肝要です。

何か「対策」するかどうかは、その後の話です。

親世代(お父さん、お母さん)がお元気なうちでないと「対策」できないことがよくあります。

せめて「確認」「検討」「診断」 だけでも、今すぐしておくべきと考えます。

「確認」「検討」「診断」とは?

① 親世代の財産状況はどうか・・・親世代が預貯金や自宅不動産のみを保有するだけでも何か対策が必要になることがあります。収益不動産などがあれば尚のことです。

② ご家族の状況はどうか・・・(推定)相続人だけでなくその配偶者や家族等の経済的状況、性格や考え方などはどうか?

③ 親世代・次世代のご希望・・・「子たちが相続争いをするのは嫌だ」「先祖代々の土地は残したい」「体の弱いあの子のことが心配だ」「自宅不動産が兄弟姉妹と共有になっては困る」等々。

思いを巡らせば具体的な「希望(ああしたい、こうしたい)」が見えてきます

上記①②③の3点につき

我が家はどんな状態なのかを「確認」し

将来起こりうるリスクについて「検討」してみる

ことをおすすめします。「診断」です。

「確認・検討」「診断」については民法や会社法、信託法等の法律の知識を持った専門家が参加することをおすすめします。

よ・つ・ばグループには行政書士・司法書士・宅建士・税理士・FP等々専門家が数多所属しております。全国の専門家が相談に乗らせていただきます。

家族内の複雑でセンシティブな問題であるからこそ、お気軽にお声がけください!

「先送り → 手遅れ」では、もったいない!!

お近くのよ・つ・ばグループの社団まで!!

一般社団法人親愛信託名古屋 代表理事 今井博幸

実家を信託したら?

Q:実家を信託するとどのような効果がありますか?

A:認知症になる前に実家の所有者である親が、実家を信託することで、親が認知症になってしまっても、受託者が実家を売却することや貸し出すことも可能になります。信託財産にした時の受益者である親が死亡した後も次の受益者を定めていれば、実家の相続手続きは簡単な手続きですむことになります。

解 説                             

1.実家が空き家になる

親は田舎の実家に住んでおり、子供は都会で生活をしている場合、実家を引き継ぐ家族がいないと空き家となり、社会的にも大きな問題になってしまいます。親が倒れた場合や認知症になってしまった場合に、空き家になった実家を賃貸等で活用したり、実家を売却することもできなくなる可能性があります。

2.いざ実家を売るにはどうなる?

実家を売却する必要があっても持ち主である親が認知症になって意思確認ができなくなると売却はできません。売却するためには、認知症になった親の代理人を務めさせるための成年後見人の選任を家庭裁判所に申請をして、家族以外が成年後見人に選任された場合、後見人に、親が死亡するまで報酬を支払い続け、親の財産すべてを後見人が管理することとなります。

3.もめなくても遺産分割できない?

例えば、高齢の父所有の実家を信託せずに遺言もなく死亡し、相続になり、その段階で残された高齢の母も寝たきりや認知症で意思疎通ができない場合、相続人との遺産分割協議ができなくなります。

4. 実家を信託して管理・処分権限を受託者に移す

認知症等になる前に、実家等凍結すると困るような財産を信託しておけば、信託財産は受託者の名義に変わり、信託契約で決められた権限に従って、売却、管理、修繕等を受託者が行うことが可能になります。

※本文は様々悩みを“親愛信託”で解決!! 信託活用Q&A

(編著 よ・つ・ばグループ 協同組合親愛トラスト©)のP38、P39の文章を一部修正しております。

詳細は本文をご覧ください。

上記著者

一般社団法人よ・つ・ば民事信託北海道 理事 市下順紀

高齢の不動産オーナーと健康寿命

みなさんこんにちは。沖縄より行政書士・宅建士の石原です。

去る2022年12月10日(土曜日)は、よつばグループの全国総会が東京で行われました。沖縄から私を含む2名の理事が総会に参加しました。東京が開催地とのことで、以前から行きたかった「三菱UFJ信託銀行信託博物館」に行ってきました!

信託に関する貴重な資料をたくさん見ることができました。専門家だけではなく、一般の方にもおすすめです。

URL:https://www.tr.mufg.jp/ippan/about/hakubutsukan/

さて、沖縄は世界でも屈指の長寿県と言われておりますが、みなさん本当に長生きです。

私の曾祖母は105歳までいきていました。沖縄の平均寿命は下記の通りです。

平均寿命(男性) 79.40 年 

平均寿命(女性)87.02 年

しかし、日常生活に制限のない期間の平均、「健康寿命」はいかがでしょうか

健康寿命(男性):70.81 年

健康寿命(女性):74.86 年

男性も女性も、寿命と健康寿命では10年前後差があるのです。

健康な間はいいのですが、その後の10年間は心配です・・

最近、収益物件を持ついわゆる大家さんからよくこんなご心配の声をいただきます。

「自分がなくなった後は、妻に収益物件を残したい。しかし、妻も高齢なので管理できるのだろうか」

妻が生きている間は、息子や孫ではなく、妻自身に権利を持ってほしいと思う、一方で、管理できるのが心配とのことですね。そして健康寿命と平均寿命を考えると・・。

親愛信託なら解決できます。

親愛信託であれば、所有権を「名義」と「権利(受益権)」に分けることができます。

ご自身が元気な間に信託契約を設定すればいいのです。

夫(ご自身)=委託者兼当初受益者

息子=受託者(名義人)

妻=二次受益者

息子=帰属権利者

このようにご自身と息子で信託契約を締結することで、ご自身の死後も、息子に管理をしてもらいながら、妻に受益権を持たせることができます。収益不動産の利益は、妻の生活費に充てることもできます。

認知症対策で使われることが多い信託ですが、「望みをかなえる財産管理ツール」としてご活用いただくことも可能なのです。

一般社団法人よつば親愛信託おきなわ 代表理事石原桃子

出典:

平均寿命は、平成 22 年都道府県別生命表 より

健康寿命は、平成 22 年厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」より

親なきあとへの備えも大事だが親の終活問題も考えよう

先日、親なきあとの備えについて障がい者の家族の支援や情報提供を行なっている方のセミナーを受講しました。

その方は二人の知的障がい者のお母さんでした。自身の経験から同じように「親なきあと」の心配をしている方が大勢いることを知り、講演活動等を通じて、将来に備えることの重要性を訴えているそうです。

彼女は、「親なき」という言葉は「親亡き」だけではなく親が生きているときのことも考えていかないといけない。だから「親なき」だとおっしゃっていました。確かにそのとおりです。

知的障がい者をお持ちの親は自分達が亡くなったあとのことを考えています。

しかし、親である自分達が認知症等になった場合等自分達のことも考えておかないといけません。

■親の死亡後について

・障がいのある子にどの財産をどう残すのか?

・障がい者本人は財産管理ができないので、誰に管理してもらうか?

・障がい者が亡くなった後の財産の承継をどうするのか?

・障がい者の葬送(葬儀・墓地・法要等)はどうするのか?

等を考えておく必要があります。

■親自身の終活について

・自分が認知症等になった場合の財産管理はどうするのか?

・自分達の面倒は誰にしてもらうのか?

・子ども達の面倒を誰にしてもらうのか?

・相続はどうするのか?

・葬送(葬儀・墓地・法要等)はどうするのか?

等を考えておく必要があります。

まずは家族でどうしたいのかを考えましょう。

そして、それをどのように実行していけるのかを様々な法律・制度を活用して実行できるように検討して行きましょう。

・親愛信託(家族信託)

・成年後見制度

・遺言

・日常生活自立支援制度

等どの方法がよいかを検討し、実行して行きましょう。

親愛信託は、

・親自身が認知症になった場合に財産(受益権)管理ができます

・親が亡くなった後に障がい者に財産(受益権)を承継できます

・障がい者の財産(受益権)の管理もできます。

・障がい者が亡くなった後に他の方へ財産(受益権)を承継できます

等とても有効な手段だと思います。

ただ、実際に活用するにあたっては、いろいろなシチュエーションや他の制度との併用も考えながら進めて行きます。

親が元気な今のうちに検討をしていただきたいです。

一般社団法人よつば親愛信託大分 理事 阿部豊志

離婚した方に喜ばれる親愛信託

昨今、結婚して子ができた後に離婚する方も多いと思われますが、本日は、そのような方に喜ばれる親愛信託の利用例を2件紹介いたします。

1.離婚後、再婚したが、現配偶者との間には子がいない場合、通常の相続ですと自分の死後、現配偶者と子(前配偶者との間の子)が相続人となります。そして、現配偶者の死後は現配偶者が相続した財産は現配偶者の兄弟姉妹等に承継されてしまい、自分の子がその財産を承継できなくなる可能性があります。

しかし、親愛信託を利用すれば、自分の死後、現配偶者が承継した財産が、現配偶者の死後は自分の子に承継されるようにすることができます。自分→現配偶者→子の順に二段階で財産を承継させるスキームが実現可能なのです。

2.離婚後、独身の場合、自分の死後、財産は子のみに相続されます。しかし、子が未成年で、且つ、子の親権を前配偶者が持っている場合、子が相続した財産は親権者である前配偶者が管理することになります。この場合、前配偶者に浪費癖があったりすると、子が相続した財産を前配偶者が浪費してしまう可能性があります。

しかし、親愛信託を利用すれば、信頼できる方(受託者)に財産を管理してもらい、自分の死後、もう一人の信頼できる方(受益者代理人)に未成年の子が承継した財産の利用権を代理してもらうことで、子が承継した財産を前配偶者の管理下から外し、前配偶者から守ることができます。

以上のようなスキームは、信託以外の方法では不可能と考えられています。家庭環境が複雑化した現代においては、親愛信託の活用の場面はこれからますます増えていくと思われます。本稿をご覧いただき、ご興味を持たれた方は、ぜひ一度、当組合のコンサルタントにご相談ください。ご相談をお待ち申し上げております。

(一社)よ・つ・ば親愛信託ちば 代表理事 山口英一

始期付きの信託契約のリスク

 民事信託の相談を受けていると、当事者(特に当初受託者)又は委託者の顧問の税理士の先生から信託を始期(1月1日)付きの契約にしたいとの要望のあるケースがあります。

 理由としましては、特に個人で収益物件を持たれている方を委託者とする場合に多いのですが、計算が煩雑になる為最初の信託の計算期間を確定申告の計算期間である毎年1月1日に揃えたいという事が多いです。

 この場合、信託契約日から信託開始日までに委託者に何かあった場合のリスクのご説明が不可欠となります。

 特に収益物件等の不動産がある場合、信託契約が終わっていても、信託が開始した1月1日以後にあらためて受託者名義に不動産の移転登記及び信託をすることについて委託者に意思確認及び委託者の判断能力の確認をする必要があります。(仮に信託開始日に委託者が判断能力を喪失されていた場合、信託自体は開始してますが、所有権移転、信託登記ができず、登記の為に成年後見人を選任しなくてはならなくなってしまう恐れもあります。)

 信託契約から登記までの期間としては、始期付きの契約の場合も数か月程度の事が多いですが、この期間内に委託者の状態が変化してしまうリスクを甘くみてはいけないと思います。

 ご高齢の方ですと、お元気でらっしゃっても急に認知症の症状が出てしまう場合が少なくありません。実際に相談者と老人ホームでお会いした際に全く問題なく会話ができていたにも関わらず、数か月後に再度お会いすると私を相談者の息子様と間違われてしまったケースも最近ありました。

 また委託者の判断能力はしっかりしてらっしゃっても怪我をされて入院されただけで、数か月にわたりご家族も含め面会できなくなってしまったケースがこのコロナ禍の数年に頻繁にありました。

 面会ができませんと委託者の意思確認や判断能力の確認も難しくなります。さらに入院前は問題がなくても入院中に判断能力も低下してしまう可能性もあります。

 

 その場合でも家族がみな信託について了解しているのだから、登記申請をしても実際は問題にならないとお考えの方もいらっしゃると思います。

 では委託者が交通事故で昏睡状態になってしまった場合も所有権移転と信託の登記申請は可能だと思われますでしょうか?

 私個人としましては、始期付きの契約のリスクを考え、計算がご面倒でも始期付きの契約を極力避けて頂く方がいいではないかと考えております。

 相談者や依頼者には、始期付きの契約にすると、信託の計算の煩雑さを避けられるかも知れませんが、決して小さくないリスクがある旨をお伝えして最終的なご判断を頂いております。

一般社団法人よつば香川民事信託推進協議会 代表理事 門馬良典

【親愛信託活用法】共有不動産の名義一元化

不動産は、一人の人が単独で所有する方がよい、と言われます。

とは言いながら、

・マイホームを買うとき親にお金を出してもらった…

・夫婦でお金を半分ずつ出し合ってマイホームを買った…

・親が亡くなってきょうだいで不動産を相続ことになってしまった…

・おじおばが亡くなって、いとこ同士で不動産を相続することになってしまった…

…等々をきっかけとして不動産を共有で持つ場合があります。

※共有とは、1つのものを複数の人で所有する状態をいいます。

1人の人が所有している場合は、【「所有権」で持っている(一人で所有している)】、などと言いますが、複数の人が共有している場合は【「持分(権)」で持っている(複数で共有している)】などと言ったりします。

では、なぜ、一人の人が単独で所有する方がよい、と言われるのでしょうか。

複数の人で不動産を共有したら、どのような不都合・不具合があるのでしょうか。

実際、不動産を共有にすると、

・売却処分がしにくい(全員の同意がいる)

・不動産を担保に入れてお金を借りることが実質的に難しい

これは、不動産全体を処分したり担保に入れたりということが困難になる、ということです。

すなわち、

        一人でも認知症だったり、意思表示できなかったりする人がいると不可

        一人でも反対の人がいると不可

        一人でも行方不明の人がいると不可

ということです。

勿論、不動産全体じゃないと処分できない、という法律はありません。持分でも、法律的には支障なく処分できることはできます。(※2023年4月27日から新設される「相続土地国庫帰属制度(相続した土地を国が引き取る制度)」を使う時は、共有者全員による申請が必要とされています。) 

ただ、不動産全体ではなく共有の持分だけを処分しようとすると、不動産全体を処分するよりもかなり安価で処分することになってしまうことが多いです。

また不動産の持分に抵当権などの担保権をつけることは民法上で勿論可能です。ただ、実際、銀行等の金融機関からお金を借りる時に抵当権等の担保権をつける場合は、持分ではなく不動産全部につけることが通例となっています。すなわち、お金を借りる人が共有者の中の一人だけだった場合でも、共有者全員に抵当権を設定する契約書にハンコをついてもらうことが必要となります。

また、共有不動産ですと、

・賃貸もしにくい(持分の過半数の同意が必要)

ということがあります。

一応、共有者のうち1人が単独でもできることもあります。

・土地の場合、境界特定、筆界特定の手続き

・建物の軽微な修繕(大規模修繕は注意)

・固定資産税については、代表者が一括で払うのが通常

管理保全行為と言いますが、そのような行為は共有者のうちのひとりでもできます。

ひとりの共有者が不動産をまもるために費用をかけた場合、別の共有者に請求をすることは法律的には可能です。立替た分の固定資産税も請求する権利があります。

ただ、実際のところお金をもらうことはむつかしいのではないでしょうか。

最近、電車などで見る広告に「持分を買い取ります!」というものがあります。

今まで書いたように、不動産を共有で持っていても、なかなかお金になりにくいので、手っ取り早くお金に変えるために、不動産の持分をそのような広告を出している業者さんに売ることもあるようです。

その場合、何が起こるでしょうか。

不動産業者が共有者の一人から、持分を買い取ると、その不動産会社が共有者の一人に変わります。

例えば相続などできょうだいで共有していたものが、きょうだいではなく、不動産会社さんに置き換わります。

その不動産会社は、共有不動産買い取りをはじめとする不動産の扱いに関して、プロフェッショナルです。

いろいろな手段で、他の共有者から共有持分を買取るように「交渉」をします。

身内だけで持っていたものに「プロ」が入り込み、買取の為の価格交渉をする、というわけです。

一般の不動産売買の知識が余り無い方にとって、非常に負担になると思われます。

また、共有状態のまま不動産を処分することなく、相続が何代か発生した場合更に共有する当事者が増加し、いざ、処分しようにも全員の合意を得ることが実質不可能になることがあります。

2024年4月1日から、不動産に関する相続登記が義務化されることになります。共有持分を持っている方々も同じように相続登記が義務化されます。売却の前に不動産登記をするだけでも相当な困難が生じることが予想されます。

これまで書きました通り、共有にすると色々と不都合、不具合がありますので、不動産の相続のときは、一人に名義を集中させるケースが増えています。

ただ、土地の名義人になれなかった相続人に支払う代償金が集まらず、やむを得ず共有にすることもあるでしょう。

お金がそろった後、名義を一人に集中させたくても、売買だとやはり売却費用がかかり、共有相手に贈与をすれば贈与税がかかり、また不動産取得税の負担もあります。

ただ、やはり共有不動産の名義を一人に集中させたい、そんな場合、親愛信託を使う方法があります。

贈与税、不動産取得税の負担がなく、名義だけを一人に集中させるのです。

共有状態の解消に親愛信託が使える

一人に名義を集中させるとき、すなわち信託契約をするとき登記が必要になります。

ただ、登記の際に必要な登録免許税は同じような名義移転である売買や贈与に比べて安いです。

登記の際必要な登録免許税

・売買…不動産評価額の1000分の15※軽減税率(2023年3月31日までの間に登記を受ける場合)

・贈与…不動産評価額の1000分の20

・信託…建物の場合は不動産評価額の1000分の4、土地の場合は不動産評価額の1000分の3

では、共有者が、一人の受託者に不動産の持分を親愛信託した場合、利益の分け方はどうなるでしょうか。

共有状態解消信託した不動産を賃貸借した場合

実は、賃貸借しても売却しても、利益の分け方は、「信託契約書で定めます。」

受益者である共有者が、その持分の範囲で金銭を受託者から受け取ることができる、というような形で決めることが多いです。

ただ、

・共有者のひとりにお金をどんどん浪費してしまう人がいる

・身内で借金を抱えている人がいる

等々、お金を簡単に渡さない方がいいと思われる方がいた場合はどうでしょうか。

そのままお金を渡すことがその人の為にならない場合もあります。

そういう場合に、親愛信託をして「受益権」とすることで、お金をむやみに渡さないようにすることも可能です。

親愛信託をすると、元々持っていた不動産の持分が、「受益権」に変ります。

「受益権」はややわかりにくい概念ですが、信託した財産をもとにした「権利」です。

信託する前の所有権も(持分権も)「権利」ですが、信託した後の「受益権」も権利です。

所有権はその物を色々と管理をしたり、保全をしたりという義務も伴いますが、「受益権」だけを持っている場合は、その物にたいして何か義務を果たさないといけない、ということはなくなります。(物について、管理したり保全したりの義務を果たすのは「受託者」です)

受益権は権利そのものではありますが、信託契約書によって、その権利の内容を決めることができます。

従いまして、お金をそのまま渡す…という【以外】の、「受益権」の内容を信託契約で決めることができます。(勿論、お金をそのまま渡す、という決め方もできます。)

その「受益権の内容」のカスタマイズについては、お客様のご事情、ご希望をお伺いし(プライベートなことを色々と聞かせていただきますが、秘密保持義務を厳守いたしますので、ご安心してお話しください)、当法人(組合)には経験に基づいたノウハウにより提案させていただいております。

例えば、信託不動産を貸すなどして賃借金などのお金が生じた時、受益者に対してすぐに金銭で渡すのでなく、お客様の希望により、

・金銭を年額で支払う

・売却するまでプールしておく

・受益者から請求があったとき(上限額を予め定めて)はじめて請求額分を支払う、

・上限額として生活費程度の金額を毎月渡すが、入院費等で使う場合には制限をつけない

等々、契約書に定めておくことができます。

また、共有者全員が親愛信託をして名義人を一人に集約すると、売却などの処分行為がその受託者の判断で行えます。

(もしも、受託者一人で全部決められるのはいやだな、とお考えの方がおられる場合、同意又は承諾する権利をその方がお元気な間、行使してもらって売却する、ということも可能です。)

共有状態解消信託した不動産を売却した場合

親愛信託した不動産を売却した場合、信託財産が不動産から、金銭に変わることになります。

(必ずしも売却により信託が終了するわけではありません。)

共有状態が不便なので、親愛信託をしたわけですから、信託財産が不動産の共有持分から金銭に変ったら信託を終了させる契約をすることが多いです(そのまま金銭信託に移行させることもできます。)。

信託を終了させると、「清算」、清算が終わったら、残った財産(残余財産)は、信託契約上残余財産を持つことに決まっている人(残余財産帰属権利者、最後の受益者を残余財産帰属権利者とする取り決めが多いです)が所有することとなります。

上記の場合は、売買にかかった費用等を清算して、受託者報酬を払うことに決まっていた場合はそれを支払い、残った金銭を元の受益者が受け取る、と言う流れになるでしょう。

まとめ

共有状態のまま、共有者が全員元気で、海外に行っている人や行方不明者もおらず、売買できるということもあります。

ただ、そうでない場合は、親愛信託で名義を集約することで、課税負担等を最低限にして、慌てて安値で処分をすることなく、良い売買先をじっくり探したり、お金に困った共有者が先駆けて不動産業者に持分を売って、共有者に「赤の他人」が入り込むことを防ぐことができます。

不動産共有をされている方だけでなく、不動産共有状態にこれからなりそうだという方は是非、導入のご検討をしていただければと思います。当組合又は社団までご相談ください。

よ・つ・ば親愛信託ちば 理事 望月亜矢子