【スタッフブログ】空き家を相続放棄できるか?

空き家を相続放棄できるか?

 近年、「空き家」が社会問題となっています。自分の親が長い間空き家となっている自宅だけを残して亡くなった場合にこれを相続放棄できるかという相談をときどき受けます。相続放棄自体はできるのですが、少し難しい問題もありますのでそのあたりをご紹介したいと思います。

 まず、相続放棄ですが、基本的人亡くなったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述書を提出する必要があります。相続放棄は亡くなった人の財産のすべてを放棄する手続きですので、現預金だけを受け取って、借金や不動産だけを放棄するなどということは当然できません。

 亡くなった人の財産が空き家だけであってもこの相続放棄の手続きは、問題なくできます。これでこの空き家に関する責任から逃れることができるわけです。ところが、民法に以下のような規定があります。

 民法第940条第1項「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」

 つまり、自身が相続放棄をしても次の管理者に引き継ぐまでは、管理責任が発生するということです。ただ、この管理責任がどこまでの管理を要求しているのか判然としません。例えば、相続放棄をした空き家が倒壊しそうになっている場合、これを修繕することまで要求するのは、難しいのではないかとも思えます。

 では、相続放棄をした結果、相続人がいなくなってしまった場合はどうすればよいのか。家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任申立てをして、相続財産管理人に引き渡せばよいのです。そうすれば、完全にこの空き家に関する責任から逃れることができます。

 ただし、ここでの問題点はその費用負担です。相続財産管理人を申し立てるにあたって、裁判所に予納金を収める必要があります。その額は事案によって裁判所が決めますが、私が経験した案件では50万円程度、場合によってはもっと高くなることもあります。この費用負担ができればよいのですが、それができずに相続放棄だけをして、管理者がいない空き家となって放置されている不動産も存在するのです。

 このような事態にさせないために、不動産を所有している人が予防のための手続きをしておくことをお勧めします。遺言や信託契約など、所有者が元気であれば選択肢はたくさんあります。ぜひお早めに検討してみてはいかがでしょうか。

協同組合親愛トラスト 理事 田代

~相談してはいけない専門家の見分け方~ 第3回目

★第3回目

Q3:親愛信託とはどのようなものなのでしょうか?

:家族信託のことですね。これは主な使い方としては、認知症対策です。成年後見制度の代替とし使うものです。本人の死亡で信託を終了させることが一般的です。

:民事信託のことですね。信託とは本来は資産運用を目的として信託銀行や信託会社が使う制度なのですが、小規模で銀行などが取り扱ってくれない財産などを便宜的に家族などが受託者となって行うのが民事信託です。しかし、やはり受託者が一般人というのは危険ですから、小規模な信託も取り扱ってくれる信託会社が必要ですね。

:一応、今の信託法では認められているようですが、まだ裁判例がないし、遺言や成年後見制度を使った方が無難なので、使わない方が安全だと思います。

:親愛信託は家族に限定せず、本当に親しく愛情のある人を信じて財産を託する仕組みで、生前の財産管理対策のみならず、将来にわたっての財産承継対策や事業承継対策その他様々な活用法があり、英米では当たり前に使われている仕組みですから、我が国でも大いに普及させるべきだと思います。

Q4:信託をすれば成年後見制度を使う必要はなくなりますか?

:我が国の成年後見制度は使いづらく自分の財産が使えなくなるという間違っている制度なので、それを回避するために使うのが家族信託です。

:成年後見制度は家庭裁判所の監督下にある専門家が後見人として付く、極めて安心できる制度ですから、誰も監督しない不安定な制度である民事信託とは、全く別のものとして使うべきです。

:信託は今までも使われていませんでしたし、成年後見制度も預金が下せないとか何か不便があった時に使ったら良いのではないでしょうか?

:親愛信託と成年後見制度は根本的に異なる制度ですから、信託財産関係以外で必要になるケースはあると思いますが、現在の法定後見制度には問題があるので、もし使うなら任意後見契約を検討された方が良いと思います。後見制度はその人自身に対する制度で、信託は財産に対して使う制度ですので、使い方が異なりますので、ケースに応じて使うことが大切です。

生命保険と遺産相続との関係についての再検討

星野豊氏の論文をもとによ・つ・ばグループの理事および会員で、ZOOMによる勉強会を開催しました。

グループの会員限定のセミナーですが、信託を実務で提案・実行する際に必要になってくるのが生命保険の知識です。

生命保険は受取人固有の財産という最高裁判例が出ていますが、

相続財産としてはどのような考え方をすればよいのか?

信託財産との考え方はどうなのか?

などを論文の中にある判例8つを検討し、生命保険の基本をあらためて見直すことをしました。

「相続人」と「該当者が相続人にあたる人になる」という場合の違い、相続財産ではないけれどみなし相続財産となる場合など、何が根拠なのかがきちんとわかっていないと混乱してしまうケースがたくさんあります。

信託と生命保険のしくみがきちんと理解できると活用できるケースが広がります。今日の論文の中には登場しませんでしたが、指定代理請求人の権限は何なのかという質問や海外の相続などについてももっと情報が欲しいなどという意見も出たので、今後もテーマを決めて、会員に向けての勉強会を開催していく予定です。

~相談してはいけない専門家の見分け方~ 第2回目

★第2回目
:信託濫用派:信託を商売の道具と考え、将来に責任は持たずあまり勉強はせずに、単純な実務を多数やっている。

:信託規制派:国民に信託を自由に使わせず、国が規制をかけるべきと考え。

:信託懐疑派:新しい制度である信託に違和感があり、判例が出るまで待とうという考え。

:信託推進派:国民の幸せのために、さらなる信託の活用法を研究開発しようとしている。

Q1:信託とはどういった仕組みなのですか?という質問に対してのそれぞれの答え

:委託者が受託者に財産を「預けて」、契約書に書けば委託者の代わりに受託者が何でもできて、その利益は受益者が受け取るという仕組みです。

:財産の所有権が委託者から受託者に移転し、受益者が受託者に対する債権者として権利を行使するという仕組みです。

:複雑でよく分からないし、遺言でも大丈夫なので、一般の人は使わない方が安全だと思います。

:委託者の財産を「所有権」から「信託受益権」というものに性状変換する仕組みで、名義だけは受託者に変わりますが、権利は「受益者」という名になった委託者がそのまま持ち続けます。自分に合った使い方が出来て、将来のリスクを減らすことができます。

Q2:自己信託という仕組みもあるそうですが?という質問に対してのそれぞれの答え

:あるみたいですけど、認知症対策にはならないので使えないでしょう。

   特別な人が使うものなので、普通の人には必要ありません。

:自己信託は所有権の移転がないので、本来の信託とは言えず、あくまでも不動産証券化などの特殊な事例でのみ使われる例外的な存在です。実際にはほぼ使われてないはずです。

:それは信託法の条文にはありますが、使う人も少ないし、事例も少ないので使わない方がいいと思います。

:自己信託は名義が変わらないだけで、他の信託と同じく、様々な活用法が考えられます。ただ名義が変わらないので、認知症対策にはなりませんが、事業を展開する場合や財産の承継の方法としては他のしくみでは出来ないことを実現することができます。ただし、「1年ルール」というのがあるので、それには留意しなくてはなりません。

~信託法条文~ 第1条/第2条 よ・つ・ば的解説付

2007年(平成19年)に施行となった信託法の全面改正から12年以上を経過しましたが、いまだに基本的な解釈の部分から諸説あり、定まっていない部分が少なくありません。

そこで、改めて信託法の条文ごとに、諸説が存在することを前提としながらも、よ・つ・ばグループが提唱する「親愛信託」の基本的解釈である「性状変換説」の立場で分析して、ご紹介していきます。

なお、明らかに商事信託のみを前提として作られている条文については簡単な説明にとどめ、実際に親愛信託に関係する条文に説明の中心を置きたいと思っています。

まずは第1条と第2条です。

(趣旨)

第一条 信託の要件、効力等については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

この条文は、信託法と他の法律との関係を示しているが、民法など他の一般法において「信託」を規定した条文は存在しない(借地借家法や労働基準法等は、民法に存在する同様の規定を排除して優先適用させるためにある)ため、信託法は信託に関する独立した一般法であると解釈できる。「他の法令に定めるもののほか」という文言は、この法律が一般法であり、この法律に対しての特別法が存在するときには特別法の規定が優先するという意味であると考えられる。

参考

会社法 第1条(趣旨) 会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

保険法 第1条(趣旨) 保険に係る契約の成立、効力、履行及び終了については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

すなわち、信託法は、同時期に作られた会社法や保険法と非常に類似しており、このことが民法における相続の規定が信託法においては適用されないとする一つの根拠となり得るものと考えられる。

(定義)

第二条  この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

この条文が信託という行為の定義である。曖昧な部分が多く、解釈が分かれているが、旧法時代の「要物契約」ではなく、諾成契約的なものであると認められたのは間違いない。

旧法では「本法ニ於テ信託ト称スルハ財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムルヲ謂フ」となっており、委託者から受託者への財産の移転が成立要件となっていたため、これが今の根強く残る「物権変動説」の根拠となっているが、新法においては要件が変更になったため、「性状変換説」の説得力が増大したものと言える。

 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。

 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約

 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言

 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示

この条文は、信託を成立させるための「契約」「遺言」「信託宣言」を一つにまとめて「信託行為」と呼んでおり、明らかに民法上の契約及び単独行為の考え方とは異なる概念を作り出している。

 この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。

 「受託者に属する財産」という文言から、物権変動説を採る者は受託者が財産の所有者であると主張するが、「属する」という文言は必ずしも「所有する」という概念とは一致せず、性状変換説においては「管理に属する」という意味で考える。

 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。

「信託をする者」という記載から、最初に信託行為を行う(民法上の財産を信託財産に変換する)ことができるのは委託者のみであると考えられる。その意味から、委託者とは「元の所有者」を指す言葉であると解釈できる。そのことから、追加信託という行為は委託者にのみ許される法律行為であると言える。

 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。

受託者とは、あくまでも信託行為に定められた範囲において必要な行為のみしか行うことができず、かつ信託の目的達成に必要な範囲での義務のみしか負わないと考えられ、これが民法上の代理や後見との明らかな相違点である。 

 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。

 次項で受益権について定義されているが、「受益者」は民法上の「債権者」と同一の概念ではない。

 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。

受益権が民法上の「債権」とは異なり、信託法独自の概念であることを示している。なお、ここで言う受益債権に対する債務者は、実際には「信託財産」であって、受託者個人ではないが、日本の法律上では「財産」自体を債務者とするルールが存在しないので、信託財産を管理する受託者を「名義上の債務者」としていると考えられる。

 この法律において「固有財産」とは、受託者に属する財産であって、信託財産に属する財産でない一切の財産をいう。

 受託者の固有財産は信託とは関係なく存在する「別の財産」であることを示しており、逆に「信託財産に属する財産」は受託者の財産ではないと解釈できる。

 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。

 第7項で解説した通り、信託における債務者は実際には「信託財産」であるが、第12項には限定責任信託の規定があり、立法者にも迷いや揺れがあったものと想像される。

10  この法律において「信託の併合」とは、受託者を同一とする二以上の信託の信託財産の全部を一の新たな信託の信託財産とすることをいう。

信託の併合の概念は、信託財産を一つの「法人」であるかのように見ているものであり、法人の合併と同様に複数の信託を併合できると考えている。

11  この法律において「吸収信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい、「新規信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいい、「信託の分割」とは、吸収信託分割又は新規信託分割をいう。

前項で規定されている信託併合の逆パターンであり、やはり信託財産を一つの法人として考えていることが明確に分かる条項。

12  この法律において「限定責任信託」とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。

第9項で示した通り、これが本来の「信託財産責任負担債務」の在り方であるが、日本の法律上も金融制度上も、財産のみを債務者とする制度が存在しないので、ここでも迷いや揺れが生じているよう。