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~信託法条文~ 第1条/第2条 よ・つ・ば的解説付

2007年(平成19年)に施行となった信託法の全面改正から12年以上を経過しましたが、いまだに基本的な解釈の部分から諸説あり、定まっていない部分が少なくありません。

そこで、改めて信託法の条文ごとに、諸説が存在することを前提としながらも、よ・つ・ばグループが提唱する「親愛信託」の基本的解釈である「性状変換説」の立場で分析して、ご紹介していきます。

なお、明らかに商事信託のみを前提として作られている条文については簡単な説明にとどめ、実際に親愛信託に関係する条文に説明の中心を置きたいと思っています。

まずは第1条と第2条です。

(趣旨)

第一条 信託の要件、効力等については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

この条文は、信託法と他の法律との関係を示しているが、民法など他の一般法において「信託」を規定した条文は存在しない(借地借家法や労働基準法等は、民法に存在する同様の規定を排除して優先適用させるためにある)ため、信託法は信託に関する独立した一般法であると解釈できる。「他の法令に定めるもののほか」という文言は、この法律が一般法であり、この法律に対しての特別法が存在するときには特別法の規定が優先するという意味であると考えられる。

参考

会社法 第1条(趣旨) 会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

保険法 第1条(趣旨) 保険に係る契約の成立、効力、履行及び終了については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

すなわち、信託法は、同時期に作られた会社法や保険法と非常に類似しており、このことが民法における相続の規定が信託法においては適用されないとする一つの根拠となり得るものと考えられる。

(定義)

第二条  この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

この条文が信託という行為の定義である。曖昧な部分が多く、解釈が分かれているが、旧法時代の「要物契約」ではなく、諾成契約的なものであると認められたのは間違いない。

旧法では「本法ニ於テ信託ト称スルハ財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムルヲ謂フ」となっており、委託者から受託者への財産の移転が成立要件となっていたため、これが今の根強く残る「物権変動説」の根拠となっているが、新法においては要件が変更になったため、「性状変換説」の説得力が増大したものと言える。

 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。

 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約

 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言

 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示

この条文は、信託を成立させるための「契約」「遺言」「信託宣言」を一つにまとめて「信託行為」と呼んでおり、明らかに民法上の契約及び単独行為の考え方とは異なる概念を作り出している。

 この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。

 「受託者に属する財産」という文言から、物権変動説を採る者は受託者が財産の所有者であると主張するが、「属する」という文言は必ずしも「所有する」という概念とは一致せず、性状変換説においては「管理に属する」という意味で考える。

 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。

「信託をする者」という記載から、最初に信託行為を行う(民法上の財産を信託財産に変換する)ことができるのは委託者のみであると考えられる。その意味から、委託者とは「元の所有者」を指す言葉であると解釈できる。そのことから、追加信託という行為は委託者にのみ許される法律行為であると言える。

 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。

受託者とは、あくまでも信託行為に定められた範囲において必要な行為のみしか行うことができず、かつ信託の目的達成に必要な範囲での義務のみしか負わないと考えられ、これが民法上の代理や後見との明らかな相違点である。 

 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。

 次項で受益権について定義されているが、「受益者」は民法上の「債権者」と同一の概念ではない。

 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。

受益権が民法上の「債権」とは異なり、信託法独自の概念であることを示している。なお、ここで言う受益債権に対する債務者は、実際には「信託財産」であって、受託者個人ではないが、日本の法律上では「財産」自体を債務者とするルールが存在しないので、信託財産を管理する受託者を「名義上の債務者」としていると考えられる。

 この法律において「固有財産」とは、受託者に属する財産であって、信託財産に属する財産でない一切の財産をいう。

 受託者の固有財産は信託とは関係なく存在する「別の財産」であることを示しており、逆に「信託財産に属する財産」は受託者の財産ではないと解釈できる。

 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。

 第7項で解説した通り、信託における債務者は実際には「信託財産」であるが、第12項には限定責任信託の規定があり、立法者にも迷いや揺れがあったものと想像される。

10  この法律において「信託の併合」とは、受託者を同一とする二以上の信託の信託財産の全部を一の新たな信託の信託財産とすることをいう。

信託の併合の概念は、信託財産を一つの「法人」であるかのように見ているものであり、法人の合併と同様に複数の信託を併合できると考えている。

11  この法律において「吸収信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい、「新規信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいい、「信託の分割」とは、吸収信託分割又は新規信託分割をいう。

前項で規定されている信託併合の逆パターンであり、やはり信託財産を一つの法人として考えていることが明確に分かる条項。

12  この法律において「限定責任信託」とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。

第9項で示した通り、これが本来の「信託財産責任負担債務」の在り方であるが、日本の法律上も金融制度上も、財産のみを債務者とする制度が存在しないので、ここでも迷いや揺れが生じているよう。