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民事信託の相談を受けていると、当事者(特に当初受託者)又は委託者の顧問の税理士の先生から信託を始期(1月1日)付きの契約にしたいとの要望のあるケースがあります。
理由としましては、特に個人で収益物件を持たれている方を委託者とする場合に多いのですが、計算が煩雑になる為最初の信託の計算期間を確定申告の計算期間である毎年1月1日に揃えたいという事が多いです。
この場合、信託契約日から信託開始日までに委託者に何かあった場合のリスクのご説明が不可欠となります。
特に収益物件等の不動産がある場合、信託契約が終わっていても、信託が開始した1月1日以後にあらためて受託者名義に不動産の移転登記及び信託をすることについて委託者に意思確認及び委託者の判断能力の確認をする必要があります。(仮に信託開始日に委託者が判断能力を喪失されていた場合、信託自体は開始してますが、所有権移転、信託登記ができず、登記の為に成年後見人を選任しなくてはならなくなってしまう恐れもあります。)
信託契約から登記までの期間としては、始期付きの契約の場合も数か月程度の事が多いですが、この期間内に委託者の状態が変化してしまうリスクを甘くみてはいけないと思います。
ご高齢の方ですと、お元気でらっしゃっても急に認知症の症状が出てしまう場合が少なくありません。実際に相談者と老人ホームでお会いした際に全く問題なく会話ができていたにも関わらず、数か月後に再度お会いすると私を相談者の息子様と間違われてしまったケースも最近ありました。
また委託者の判断能力はしっかりしてらっしゃっても怪我をされて入院されただけで、数か月にわたりご家族も含め面会できなくなってしまったケースがこのコロナ禍の数年に頻繁にありました。
面会ができませんと委託者の意思確認や判断能力の確認も難しくなります。さらに入院前は問題がなくても入院中に判断能力も低下してしまう可能性もあります。
その場合でも家族がみな信託について了解しているのだから、登記申請をしても実際は問題にならないとお考えの方もいらっしゃると思います。
では委託者が交通事故で昏睡状態になってしまった場合も所有権移転と信託の登記申請は可能だと思われますでしょうか?
私個人としましては、始期付きの契約のリスクを考え、計算がご面倒でも始期付きの契約を極力避けて頂く方がいいではないかと考えております。
相談者や依頼者には、始期付きの契約にすると、信託の計算の煩雑さを避けられるかも知れませんが、決して小さくないリスクがある旨をお伝えして最終的なご判断を頂いております。
一般社団法人よつば香川民事信託推進協議会 代表理事 門馬良典