お問い合わせ
金融機関様用お問い合わせ
保険業・不動産業・士業の方お問い合わせ

不動産信託

個人所有の不動産の受益権を自社の法人に移転した事例

個人で不動産を所有している場合、所有者が死亡するとその不動産は法定相続の対象となります。
私の場合は配偶者も子もいないため、直系尊属である母が相続することになります。

しかし、母は認知症気味で体調も思わしくなく、長期入院中のため、相続手続きや不動産の管理は困難です。
後見人も付けていません。

兄弟姉妹は3人いて関係は良好なので、遺言で彼らを相続人に指定することも選択肢としてなくはないのですが、
不動産の管理や売却の負担を考えると、あまり気が進みません。
できれば、法定相続を避けたいと考えています。

また、給与所得がある人が不動産を個人で運用する場合(いわゆる「サラリーマン大家さん」)、
使える経費は限定的になるほか、給与所得に不動産所得を加えた額に対して累進課税が適用されてしまいます。

一方で、法人の場合は経費の適用範囲が広く、売上を圧縮することで節税が可能です。
このため、個人から法人へ所有権を移転する方法も考えられますが、
登記費用などの経費が非常に高額になります。

そこで、役員が自分ひとりのマイクロ法人を設立し、
不動産の価格分をそのまま会社に貸し付け、
受益者を法人とする「自己信託宣言」を設定しました。


委託者:本人
受託者:本人
受益者:本人が経営する法人


これにより、私に万一のことがあっても不動産の法定相続は避けることができ、
信託が終了することもありません。

信託の条文には
親族が争うことなく的確なものに財産を承継することを目的とする
と記載されており、信頼できる人を法人の役員に迎えることで、
比較的自由に不動産を管理・運用・処分することが可能です。

また、法定相続人に相続させたい信託監督人は、「一般社団法人よ・つ・ば」に指定されています。
そのため、新たに受託者となった人が不動産の処分などに困った場合でも、
相談先を改めて探す必要がありません。

さらに、本人が経営する法人への無利子貸付については課税されません。
所有権移転登記の必要がないため、
登録免許税、不動産取得税、不動産の媒介手数料も発生しません。

必要となる経費は、信託に関する登記費用および信託のための諸費用のみです。
所有権を法人に直接移転する場合に比べ、信託法を活用する方法は大幅な節約となりました。

令和7年5月16日
一般社団法人よ・つ・ば民事信託北海道
理事 渕上綾子