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【受益者指定権等】 重要度MAX
第89条 受益者を指定し、又はこれを変更する権利(以下この条において「受益者指定権等」という。)を有する者の定めのある信託においては、受益者指定権等は、受託者に対する意思表示によって行使する。
民法と異なる財産の管理・承継方法の規定として最も典型的な内容を示している、最重要条文の一つである。
「指定権者」「変更権者」として信託行為で指名された者が、受益者指定権及び受益者変更権という、民法上の所有権では絶対に有り得ない、財産権者を当事者の同意なくして移動させる権利を行使できるとしており、これこそが信託の本質なのである
2 前項の規定にかかわらず、受益者指定権等は、遺言によって行使することができる。
遺言を使って「指定権」「変更権」を行使することもできるとしている。
3 前項の規定により遺言によって受益者指定権等が行使された場合において、受託者がこれを知らないときは、これにより受益者となったことをもって当該受託者に対抗することができない。
遺言で受益者の指定や変更があった場合の特則であるが、一般的には使われないものと思われる。
4 受託者は、受益者を変更する権利が行使されたことにより受益者であった者がその受益権を失ったときは、その者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
「受益者変更権」は受益者の意思に関係なく行使されるので、受託者に通知義務を課しているが、別段の定めも認容している。
5 受益者指定権等は、相続によって承継されない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
「指定権」「変更権」は一身専属権であることを示している。
6 受益者指定権等を有する者が受託者である場合における第1項の規定の適用については、同項中「受託者」とあるのは、「受益者となるべき者」とする。
受託者が「指定権者」「変更権者」となることも許容されており、要するに誰でも指定権者や変更権者になり得るということである。
【委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例】 重要度5
第90条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
この条文は、以前は「遺言代用信託」と呼ばれており、現在では一般的となった承継型の信託行為を指している。
信託法の構成からは89条によって受益者は随時変更できるものであり、本条各項の要件に該当する委託者には受益者変更権が与えられているとされているため、法的には委託者が随時に受益者を変更することができることになっている。
ただ、実務的には生前贈与になる受益者変更権が行使されることは稀であろうし、別段の定めでもって受益者変更権の行使をさせないことも可能である。
一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
これが一般的な承継型信託の仕組みである。
すなわち、一般的な親愛信託契約においては、委託者は受益者変更権を持っているということになる。
二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
先に受益者を変更しておき、その「給付を受ける権利」のみを留保しておく形であるが、この方法では先に権利移転が生じて課税の対象となるため、まず実務では用いられない。
2 前項第2号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
前項第2号の受益者は、完全な受益権を保有しているとは言えないので、別段の定めがない限り受益者としての権利を有しないとしているが、実務で用いられることはないであろう。