一覧
第五款 受託者の変更に伴う権利義務の承継等
【信託に関する権利義務の承継等】 重要度2
第75条 第56条第1項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、新受託者が就任したときは、新受託者は、前受託者の任務が終了した時に、その時に存する信託に関する権利義務を前受託者から承継したものとみなす。
受託者が交替するまでにタイムラグが生じた場合には、原則として新受託者が遡及して権利義務を承継したものと見做すとしている。
2 前項の規定にかかわらず、第56条第1項第5号に掲げる事由(第57条第1項の規定によるものに限る。)により受託者の任務が終了した場合(第59条第4項ただし書の場合を除く。)には、新受託者は、新受託者等が就任した時に、その時に存する信託に関する権利義務を前受託者から承継したものとみなす。
受託者辞任の場合には、例外として新受託者就任時に権利義務を承継したものと見做される。
3 前二項の規定は、新受託者が就任するに至るまでの間に前受託者、信託財産管理者又は信託財産法人管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
タイムラグの間に為された行為の有効性を保証している。
4 第27条の規定は、新受託者等が就任するに至るまでの間に前受託者がその権限に属しない行為をした場合について準用する。
受益者による受託者の違反行為の取消権に関しての準用規定である。
5 前受託者(その相続人を含む。以下この条において同じ。)が第40条の規定による責任を負う場合又は法人である前受託者の理事、取締役若しくは執行役若しくはこれらに準ずる者(以下この項において「理事等」と総称する。)が第41条の規定による責任を負う場合には、新受託者等又は信託財産法人管理人は、前受託者又は理事等に対し、第40条又は第41条の規定による請求をすることができる。
損失てん補責任に関しての準用規定である。
6 前受託者が信託財産から費用等の償還若しくは損害の賠償を受けることができ、又は信託報酬を受けることができる場合には、前受託者は、新受託者等又は信託財産法人管理人に対し、費用等の償還若しくは損害の賠償又は信託報酬の支払を請求することができる。ただし、新受託者等又は信託財産法人管理人は、信託財産に属する財産のみをもってこれを履行する責任を負う。
費用償還などに対する準用規定である。
7 第48条第4項並びに第49条第6項及び第7項の規定は、前項の規定により前受託者が有する権利について準用する。
前項に同じ
8 新受託者が就任するに至るまでの間に信託財産に属する財産に対し既にされている強制執行、仮差押え若しくは仮処分の執行又は担保権の実行若しくは競売の手続は、新受託者に対し続行することができる。
強制執行などに関する準用規定である。
9 前受託者は、第6項の規定による請求に係る債権の弁済を受けるまで、信託財産に属する財産を留置することができる。
前受託者の権利を保護する規定である。
【承継された債務に関する前受託者及び新受託者の責任】 重要度4
第76条 前条第1項又は第2項の規定により信託債権に係る債務が新受託者に承継された場合にも、前受託者は、自己の固有財産をもって、その承継された債務を履行する責任を負う。ただし、信託財産に属する財産のみをもって当該債務を履行する責任を負うときは、この限りでない。
前受託者が負っている債務について、受託者の交替によっても消滅せず、引き続き前受託者が責任を負うとする規定である。
2 新受託者は、前項本文に規定する債務を承継した場合には、信託財産に属する財産のみをもってこれを履行する責任を負う。
前受託者が引き続き債務を負うということから、新受託者は債務を承継せず、信託財産でもってのみ弁済をすれば良いとされている。
この条文は、信託と債務との関係性が非常に微妙であり、我が国の債権法の常識では律せられないことを示しており、重要な内容である。