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~信託法条文~ 第31条/第32条 よ・つ・ば的解説付

(利益相反行為の制限) 重要度4

第31条 受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

民法典特有の「利益相反行為」に関する規定であるが、民法の世界では、常に債権者と債務者とは対立関係にあり、互いに自己の利益だけを追求して相手を裏切ることを前提とした「性悪説」で構成されており、親愛信託の世界での前提である「性善説」とは相容れない考え方であるが、条文が存在する限り規制に服することになるので、利益相反行為と見なされないための工夫が必要となる。

 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

受託者が信託財産を勝手に自分の固有財産にしてしまったり、逆に受託者にとって不要な財産を信託財産に入れてしまったりすることを禁止しており、これは当然の規制である。

 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

商事信託の場合には一人の受託者が複数の信託契約を締結している場合があるので、勝手に別の信託に財産を移すことを禁止している

 第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

自分が受託者になっている信託財産を売却するとか、金銭信託を用いて新たな信託財産を取得するといったケースで、受託者自身が取引の相手方の代理人となれば、信託にとって不利な契約をするであろうという前提から、これを禁止している。

しかし、公正妥当な金額での取引であれば双方に損失は生じないのであるから、これはまさに民法的な性悪説に基づく利益相反行為禁止の代表例である。

 信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

これも性悪説を前提として、受託者が信託ではなく個人の利益を優先させることを防止するための規定である。

 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第2号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

この条文が存在するため、親愛信託においては、民法的な利益相反に対する画一的な取り扱いを回避することが可能となる。

 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

「許容」が広く認められるので、親愛信託においては必要に応じて「許容の定め」を置くことになる。

 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

「許容の定め」がない場合でも、受託者と受益者との信頼関係があれば、事前に相談することによって許容されるとしている。

 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

受託者が二次受益者となった場合などを想定しているものと思われる。

 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

例えば受託者が個人として信託財産を適正な価格で取得するなど、形式的には「利益相反行為」であっても、現実的には必要な行為であった場合、これを正当な理由として認めるとする規定であり、民法に比べて、かなり柔軟性があると考えられる。

 受託者は、第1項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

通知義務であるが、別段の定めによって免除や軽減が可能となっており、親愛信託においては必要な場合には定めを設けておくことになる。

 第1項及び第2項の規定に違反して第1項第1号又は第2号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

利益相反行為をしてしまった場合には、取消ではなく「無効」とされる。

 前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

  実際に影響を受ける受益者の追認による有効化を認めている。

 第4項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第1項第1号又は第2号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第2項の規定に違反して第1項第1号又は第2号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第27条第3項及び第4項の規定を準用する。

絶対無効とすると、取引に入ってしまった第三者に影響を及ぼすので、第三者の「悪意」もしくは「重過失」の場合に限り、受益者に取消権を認めている。

 第1項及び第2項の規定に違反して第1項第3号又は第4号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第27条第3項及び第4項の規定を準用する。

前項同様に、第三者の「悪意」もしくは「重過失」の場合に限り、受益者に取消権を認めている。

第32条 重要度2                                 受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない。

これも利益相反行為の一類型として、信託事務の処理について受託者が自己の利益を図ることを禁止している。

 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項に規定する行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることができる。ただし、第2号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

 信託行為に当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることを許容する旨の定めがあるとき。

 受託者が当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることについて重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

前条と同じく、別段の定めや受益者の承諾により許容可能としている。

 受託者は、第1項に規定する行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算でした場合には、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

これも前条と同じである。

 第1項及び第2項の規定に違反して受託者が第1項に規定する行為をした場合には、受益者は、当該行為は信託財産のためにされたものとみなすことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

受益者が自分にとって不利と考えた場合に、受託者の行為を信託財産のためにして行為であると見做すことができるという規定である。

 前項の規定による権利は、当該行為の時から1年を経過したときは、消滅する。

この条項についてのみ、期間制限を設けている。