~信託法条文~ 第23条/第24条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等) 重要度3

第23条 信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。

信託財産の独立性を示している条文であるが、性状変換説から見ると至極当然の規定である。

 第3条第3号に掲げる方法によって信託がされた場合において、委託者がその債権者を害することを知って当該信託をしたときは、前項の規定にかかわらず、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者のほか、当該委託者(受託者であるものに限る。)に対する債権で信託前に生じたものを有する者は、信託財産に属する財産に対し、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売又は国税滞納処分をすることができる。

  委託者の債権者を保護するため、詐害的な信託契約の場合に例外を設けている。

  なお、民法改正に合わせて、条文の一部が改正されている。

 第11条第1項ただし書、第7項及び第8項の規定は、前項の規定の適用について準用する。

 前二項の規定は、第2項の信託がされた時から2年間を経過したときは、適用しない。

  取引の安全を考慮して、期間制限を設けている。

 第1項又は第2項の規定に違反してされた強制執行、仮差押え、仮処分又は担保権の実行若しくは競売に対しては、受託者又は受益者は、異議を主張することができる。この場合においては、民事執行法(昭和54年法律第4号)第38条及び民事保全法(平成元年法律第91号)第45条の規定を準用する。

 第1項又は第2項の規定に違反してされた国税滞納処分に対しては、受託者又は受益者は、異議を主張することができる。この場合においては、当該異議の主張は、当該国税滞納処分について不服の申立てをする方法でする。

信託財産の独立性を保護している。

(費用又は報酬の支弁等) 重要度2

第24条 前条第5項又は第6項の規定による異議に係る訴えを提起した受益者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士、弁護士法人、司法書士若しくは司法書士法人に報酬を支払うべきときは、その費用又は報酬は、その額の範囲内で相当と認められる額を限度として、信託財産から支弁する。

信託財産の独立性から当然の規定である。

 前項の訴えを提起した受益者が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該受益者は、受託者に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。

訴訟の結果に関わらず、信託財産の独立性を保護している。

【スタッフブログ】信託契約書を公正証書にするケース

契約というのは契約の当事者の意思が合致していれば必ずしも書面で行う必要はありませんが、書面に残すことで契約当時の意思をあとから確認できますし、双方の意思を文章で確認して認識の食い違いを防ぐためなどの理由で、契約を締結するときはまず書面で、ということが当たり前のように行われています。


書面契約が通常としても、契約書を公正証書で、とするとおそらく件数的にはグッと減るのではないかと思われます。ただ、信託契約書は比較的公正証書でなされることが多い契約ではないかと思います。私どもで公正証書での親愛信託契約締結をお勧めするケースは以下のとおりです。

契約の片方の当事者である委託者がご高齢で、ご高齢=行為能力(法律用語で、契約を有効に締結できる状態であることを【行為能力がある】と言います)がない、として契約の有効性に疑問を生じさせないためにも、公証人の先生が関与して契約を締結することが大切との考えからです。いわゆる「真正担保」のためです。


公正証書で契約書を作りますと、原本が1通…こちらは公証役場に保管され、(保管期間は公証人法施行規則第27条第1号により、20年です。)それを元に正本又は謄本が契約者に交付されることとなります。
公正証書の【正本】には、公証人の署名捺印がされ、原本と同一の全文、正本であること、交付請求した者の氏名、作成の年月日と場所が記載されます(公証人法第48条)。
 また、公正証書の【謄本】には、公証人の署名捺印がされ、原本と同一の全文、謄本であること、作成の年月日と場所が記載されます(公証人法第52条)。


 今は、信託金銭を管理するための専用の口座(「信託口口座」と言います)を作るとき、この信託契約書公正証書の謄本の提出を義務付けている銀行も多く出てきています。
また、親の財産を巡って子供たちに争いが起こりそうな場合、第三者に向けて信託契約が適正に締結されたことを主張したい場面が予想される場合は、将来において疑義が起こらないように、信託契約書は公正証書で締結することをお勧めしております。

一般社団よ・つ・ば親愛信託ちば 理事 AM

参考条文
公証人法施行規則
第二十七条 公証人は、書類及び帳簿を、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる期間保存しなければならない。ただし、履行につき確定期限のある債務又は存続期間の定めのある権利義務に関する法律行為につき作成した証書の原本については、その期限の到来又はその期間の満了の翌年から十年を経過したときは、この限りでない。
一 証書の原本、証書原簿、公証人の保存する私署証書及び定款、認証簿(第三号に掲げるものを除く。)、信託表示簿 二十年
二 拒絶証書謄本綴込帳、抵当証券支払拒絶証明書謄本綴込帳、送達関係書類綴込帳 十年
三 私署証書(公証人の保存する私署証書を除く。)の認証のみにつき調製した認証簿、確定日付簿、第二十五条第二項の書類、計算簿 七年

~信託法条文~ 第21条/第22条 よ・つ・ば的解説付

(信託財産責任負担債務の範囲)重要度MAX

第21条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

誤って解釈されている部分も多く、極めて重要な条文である。

そもそも日本の信託法では「債務」は信託の対象とならないことが大原則であり、信託財産責任負担債務とは、その例外をなすものである。

また信託財産責任負担債務の債務者とは、本来は「信託財産」自体であり、すなわち物的有限責任となるべき債務なのであるが、日本の債権法及び金融実務では債務者は必ず「人」であり、財産そのものを債務者とするという発想が存在しないため、結局は名義人である受託者が個人として無限責任を負うという構成となってしまう。

しかし、受託者は信託法第8条で信託の利益を享受できないと規定されており、かつ商事信託のように受託者報酬の受領が前提とはされていない親愛信託のスキームにおいて、受託者が無限責任でもって債務を引き受けさせられるのは、いかにも理不尽な話である。

その意味から、本来の信託財産責任負担債務は本条第2項に定める「信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う」とする「限定責任信託」に限るべきである。

しかし、現実には受託者に無限責任を負わせる理不尽な融資が実行されており、本条の抜本的な改正が求められる。

 受益債権

受益債権は民法上の債権とは異なり、性状変換説においては受託者に託してある受益者本人のものである信託財産を受益者本人が受け取る(受け取った財産は信託から離脱する)という構造になるので、債権という名が付いていても民法上での「請求権」とは全く異なる信託独自の概念となる。

 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利

例えば元々あった不動産の瑕疵に対する賠償請求債務などを指すものと思われ、立法者の一部が著書で述べているような「住宅ローン」などは該当しない。

何故なら日本の住宅ローンはアメリカのような「ノン・リコース・ローン(実質的に人ではなくモノが債務者であるローン)」ではなく、不動産とは直接の関係なく債務者個人に貸し出される「リコース・ローン」という仕組みになっており、不動産に関しては抵当権の設定でもって保全しているだけであるからである。 

また、よく例として挙げられている「賃貸不動産にかかる敷金」であるが、これは信託契約とは無関係の賃貸借契約から発生するものであるが、賃貸借契約は必ずしも不動産そのものだけを対象としている訳ではなく、かつ信託不動産とは別の金銭で弁済すべき債務であるため、必ずしも本号に定める債務であるとは考えられない。

固定資産税債務も同様で、これも信託契約とは無関係に「所有者個人」に対して発生するものであるから、やはり本号にかかる債務とは言い切れない。

その意味では、本号に該当する債務が実際に何であるかは、実はまだ明らかではないということになる。

 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

ここで言う債務は、信託行為でもって信託財産責任負担債務に指定した債務であると想定されるので、その債務の種類には制限はないが、現行のように受託者個人を債務者として無限責任を負わす仕組みであれば、限定責任債務でない限り、債権者にとっては、どのみち債務者である受託者個人相手の債務となるので、あまり意味をなさない。

 第103条第1項又は第2項の規定による受益権取得請求権

受益権取得請求権は信託から離脱する受益者に対して信託財産から対価を支払う制度であるから、純粋な信託内での債権債務であり、信託財産責任負担債務と言えよう。

 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利

 ここで言う「信託財産のためにした行為」とは、例えば信託不動産を保全管理あるいは修繕等をするために行った借入などを指しており、受託者が新規に信託財産を追加するために金銭を借り入れる行為、いわゆる「受託者借入」が含まれるという解釈は成り立ち得ない。

 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属しないもののうち、次に掲げるものによって生じた権利

 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合を含む。ロにおいて同じ。)の規定により取り消すことができない行為(当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知らなかったもの(信託財産に属する財産について権利を設定し又は移転する行為を除く。)を除く。)

 第27条第1項又は第2項の規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないもの

  受託者が権限外で行った行為であっても、債権者保護のために信託財産にも責任が負わされるとする規定である。

 第31条第6項に規定する処分その他の行為又は同条第7項に規定する行為のうち、これらの規定により取り消すことができない行為又はこれらの規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないものによって生じた権利

  前号と同じ。

 受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利

  受託者が行った不法行為による債務も信託財産にも責任がかかるとしている。

 第5号から前号までに掲げるもののほか、信託事務の処理について生じた権利

受託者の権限に属するか属さないかに関わらず、信託事務の処理について生じた債務については信託財産にも責任を負わせることとしている。

 信託財産責任負担債務のうち次に掲げる権利に係る債務について、受託者は、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う。

  この第2項が限定責任信託の規定であり、本来の信託財産責任負担債務である。

 受益債権

受益債権の性格については諸説あるが、少なくとも受託者個人が無限責任を負う性質の債務ではないことが明らかになっている。

 信託行為に第216条第1項の定めがあり、かつ、第232条の定めるところにより登記がされた場合における信託債権(信託財産責任負担債務に係る債権であって、受益債権でないものをいう。以下同じ。)

限定責任信託であると登記された債務を指しており、これこそが本来の信託財産責任負担債務であると言える。

 前二号に掲げる場合のほか、この法律の規定により信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものとされる場合における信託債権

 信託債権を有する者(以下「信託債権者」という。)との間で信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の合意がある場合における信託債権

  本号により、債権者との合意で限定責任債務を作ることは可能であるが、実際には日本の債権法、金融制度、そして税制との関係で合意による設定は困難であると思われる。

(信託財産に属する債権等についての相殺の制限) 重要度2            第22条 受託者が固有財産又は他の信託の信託財産(第1号において「固有財産等」という。)に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務(第1号及び第2号において「固有財産等責任負担債務」という。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって信託財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

 当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該信託財産に属する債権が固有財産等に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合

 当該固有財産等責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該信託財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産等責任負担債務が信託財産責任負担債務でないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合

 前項本文の規定は、第31条第2項各号に掲げる場合において、受託者が前項の相殺を承認したときは、適用しない。

 信託財産責任負担債務(信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものに限る。)に係る債権を有する者は、当該債権をもって固有財産に属する債権に係る債務と相殺をすることができない。ただし、当該信託財産責任負担債務に係る債権を有する者が、当該債権を取得した時又は当該固有財産に属する債権に係る債務を負担した時のいずれか遅い時において、当該固有財産に属する債権が信託財産に属するものでないことを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかった場合は、この限りでない。

 前項本文の規定は、受託者が同項の相殺を承認したときは、適用しない。

信託財産と受託者の固有財産との峻別から、相殺についての民法の一般原則と異なる規定を置いているが、常識的な内容である。